「無期転換権」行使のおすすめ

 先般、8月22日付のヤフーニュースで「なぜ有期雇用労働者は「無期転換」を望まないのか? 「希望する」は3割弱、厚労省調査の読み方」という記事が掲載されていました。
 労働契約法18条1項は、同じ勤務先で通算5年を超えて働くことになる有期雇用契約者に対し、使用者への無期雇用契約の申込権を与えています。
 しかし、この記事によれば、無期転換権を取得した労働者のうち、実際にその権利を行使したのは27.8%に止まっているとのことです。
 また、同記事では、弁護士が無期転換権が行使されない理由を分析しています。
 その内容を引用しますと、①「有期契約者の年齢が比較的高い」、②「無期転換権が行使できるほどの通算勤務年数がない(上限が定められている)」、③「無期転換ルールを知らない人が多いのではないか」、④「無期転換後の労働条件がわからない(企業内で無期転換後の労働条件=就業規則が整備されていない)」、⑤「無期転換後も労働条件が変わらないため、無期転換権を行使するメリットがない」、⑥「無期転換してしまうと、有期契約労働者に適用される法律(旧労働契約法20条、現行パート有期法)が適用されなくなってしまう。無期契約労働者と比較して不合理な労働条件の相違や差別的取扱いを禁止した、有期契約労働者の権利を保障する制度が使えないと考えられている」というものが挙げられています。
 確かに、これらの理由が権利行使の障害になっているのは間違いないでしょう。補足すると、無期転換権を知っていても、行使すると使用者から嫌がらせを受けるのが怖くて行使できないというパターンも相当な数であるのではないかなと思われます。
 さらに、同記事では、このような無期転換権が行使されない現状に鑑みると、制度自体の見直しが必要であるとの提言も行っています。私も同感です。
 ただ、本記事では現状の法制度を前提とした無期転換権行使のための法的主張方法について考えてみたいと思います。

雇用期間の上限が定められている場合→運用面を争う

 まず、②の「無期転換権が行使できるほどの通算勤務年数がない(上限が定められている)」という点ですが、確かに雇用契約書で更新期間の上限が定められている場合、5年を経過する前に雇止めされてしまうため無期転換権を行使することは簡単ではないと思われます。
 ただ、実際には採用時に更新上限がないと説明していたり、あるいは他の有期契約労働者が5年を超えて契約を更新されていたりするなど、制度が形骸化しているケースも見受けられます。
 そういうケースであれば、「更新上限規定は黙示の合意で廃止された」、あるいは、「形骸的な運用の結果、労働者には更新の期待が生じた」などと主張して雇止めの有効性を争い、同時に無期転換権を行使するという余地があると思われます。

無期転換後の労働条件がわからない→正社員就業規則の適用を求める

 次に、④の「無期転換後の労働条件がわからない(企業内で無期転換後の労働条件=就業規則が整備されていない)」については、むしろ積極的に権利行使をする材料にもできそうです。
 というのも、労務管理に無頓着な企業ですと、正社員用の就業規則の適用範囲を単に「期限の定めのない労働者」程度にしか定めていない所が多いと推察されるからです。
 この場合ですと、無期転換権を行使することで「期限の定めのない労働者」となる結果、正社員用の就業規則の適用対象となり、労働条件が向上する可能性があります。
 労働契約法18条1項によれば、「別段の定め」がない限り無期転換後の労働条件に変更はないのが本来なのですが、正社員用の就業規則が「別段の定め」に該当すると主張するわけです。
 このように、無期転換後の労働条件が定められていないというケースでは、むしろ労働条件が有利になることも考えられます。

旧労働契約法20条、現行パート有期法が適用されなくなってしまう→就業規則の合理性を争う

 さらに、⑥「無期転換してしまうと、有期契約労働者に適用される法律(旧労働契約法20条、現行パート有期法)が適用されなくなってしまう。」という点については、「パート有期法で不合理とされている待遇差を無期転換社員に認めるのは不合理」として労働契約法7条などを根拠に無期転換社員用の就業規則の規定を無効にするという主張が考えられます。
 このような判断手法は井関松山製造所事件(高松高裁令和元年7月8日判決)でも行われているところなので、今後同種案件があればその推移を注視したいところです。

最後に

 以上、法的に理屈を詰めていくと無期転換権は労働者側にとってかなり有利な権利であるといえそうです。
 ただ、理屈ではそう言っても実際問題として権利行使するとなれば、やはり使用者側からの嫌がらせ、特に無期転換逃れの雇止めが最大の不安材料になるでしょう。
 そこで、弁護士としては、契約期間が満了する前の段階から労働者の代理人として無期転換権を行使した上で、権利行使後の雇止めが労働契約法19条に違反して無効になることを表明しておくことが求められます。
 もし、無期転換権の対象になる人で、権利行使を迷っている場合には、一度弁護士に相談をされてみてください。
 せっかくの権利です。是非とも勇気を出して使ってみてほしいと思います。

 今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。