SNS炎上、どう対応するか

 最近、SNS上でホビージャパン社の従業員が転売行為を是認する投稿をして大炎上を起こしました。
 これに対し、ホビージャパン社は対象の従業員を「退職処分」としたようです。
 この「退職処分」とは要するに解雇だと思われますが、そうだとするとその有効性については労働弁護士的にはかなり疑問が残ります。
 また、この件に限らず、過去には飲食店店員等が不衛生な行動をとって炎上し、後に解雇されるという「バイトテロ案件」が複数回見られるところです。
 そこで、これを機に労働法的に見た場合にこれらの処分が有効なのかについて、私の見解をお話したいと思います。

いきなり解雇は疑問

 私が知る限り、「バイトテロ」案件では炎上騒動を知った企業が直ちに謝罪文をプレスリリースし、少し間をおいて対象従業員を(懲戒)解雇するという流れが多いようです。また、そのような処分を行った後で解雇無効を訴えが生じたという話は聞きません。
 ただ、実際問題いきなり解雇というのは法的にはかなりグレーかなという印象をもっています。

 前提として、ここでいう「解雇」には普通解雇と懲戒解雇の2つの種類があります。両者は労働者の地位を剥奪するという効果自体では同じですが、前者が労働者の適性・能力不足といった人事上の理由で行うのに対し、後者が社内における懲罰として行うという点ではっきりとした性質の違いがあります。
 そのため、一言で「解雇」という場合でも、まずはその解雇が普通解雇と懲戒解雇のどちらを指しているのかを特定する必要があります。この点が曖昧ですと、そもそも処分に対する検討が雑ということで解雇の効力が否定される可能性が強まります。

 その上で、このような場合の解雇は会社に対する社会的・経済的損害を生じさせたことに対する制裁として行われるものと考えられます。そのため、解雇の性質が明らかにならない場合、その解雇は基本的に懲戒処分としての解雇と判断されるのではないかと思われます。
 しかし、懲戒処分は、いわば「社内における犯罪者」としての烙印を押す行為です。そのため、労働契約法15条は、懲戒処分が有効となる場合を①使用者が労働者を懲戒することができる場合で、②当該懲戒に客観的合理性があり、かつ、③その懲戒処分が社会通念上も相当である場合に限っています。
 そのため、①そもそも懲戒処分ができるような社内ルールがない場合、②懲戒処分とするような根拠となる事実がない場合、③懲戒処分が重すぎる場合では、その懲戒処分は無効となります。また、懲戒処分は社内における懲罰という性質から、その処分を行うに際しては刑事訴訟手続に準じた手続の保障(例えば処分前に労働者の言い分を聞く「弁明の機会の付与」などの権利)を労働者に認めておく必要があります。
 そういった観点で従来の炎上案件を見てみると、処分までのスピードが早すぎるため、本当に「弁明の機会の付与」などが適切に行われたのか疑問を感じさせられることがあります。
 また、処分としての相当性について、確かに「バイトテロ」案件では原材料の大量廃棄・店内の一斉清掃・休業による営業損失といった多大な損害が発生します。そのため、懲戒処分の内容がかなり重いものになること自体は当然です。
 しかし他方で、例えば事前に十分な社内研修を行っていなかったというケースであれば使用者側にも相応の落ち度があります。特に、対象労働者が未熟な学生アルバイトであれば、一層事前教育の必要があると判断される可能性があります。それを、解雇という形で労働者のみに責任を押しつける方法をとることは使用者側に不利な事情のひとつと評価されてもやむを得ないように思われます。
 そのため、私自身の見解としては、「バイトテロ」案件であっても、対象労働者が学生アルバイトで、事前の社内教育もないまま初めて炎上案件を発生させてしまったという場合には、直ちに懲戒解雇とすることは無効となる可能性が十分にあると考えています。
 また、普通解雇の場合でも、その解雇に①客観的合理性と②社会的相当性があって初めて有効となる点では懲戒解雇に近いものがあります。そのため、普通解雇の方が懲戒解雇よりも若干緩いといっても、実際には解雇の難易度に大差はありません。
 普通解雇の場合には、解雇の理由は業務上の適性・能力に欠けるという点が中心になるのでしょうが、対象労働者が学生アルバイトという場合、初期の業務遂行能力はそれほど高いものが求められていない上に、社内教育により行状が改善する見込みも大きいと判断されると思われるので、いきなり解雇は少なくとも解雇の社会的相当性を欠くように感じられます。
 そのため、普通解雇の場合でも、やはり上記のようなケースでは解雇が無効になる可能性は十分にあると考えます。

それならどういう処分をしたらいいのか?

 ただし、「バイトテロ」が企業に対し社会的・経済的に大損害を与える行為であることに間違いはありません。そのため、対象労働者にはかなり重い社内処分を行うことはむしろ当然であると考えます。ただし、その場合でも、対象労働者には十分な手続保障をする必要があります。
 そこで、仮に私が事前に会社側から相談を受けたとしたら、まずは懲戒の対象となる行為の日時・場所・行為・損害の内容を特定したうえで、本人たちから事情聴取を行い、候補となる処分内容を決めた上で、再度本人たちに懲戒の対象となる事実を告げ、本人たちの言い分を聴き取り、最終処分を判断するよう助言するでしょう。また、懲戒処分の種類については会社の損害の程度や事前の教育機会の有無やその内容などを考慮し、出勤停止処分を上限に選択するよう指導すると思われます。
 その上で、対象労働者が性懲りもなくさらに別の問題を生じさせたら、いよいよ解雇を検討するというプロセスをたどることになります。

なぜ解雇無効の問題が起きないのか

 このように、炎上案件の解雇の有効性には疑問が感じられることが少なくありません。しかし、実際問題として、この手の案件で解雇無効の紛争が起きたという話は聞かないです。
 その理由は、①やっている行為と結果自体は悪質で重大であるため、対象労働者も神妙になっていること、②この手の事案では多くの対象労働者が学生アルバイトであるため、退職に特に抵抗を感じないことにあるのではないかと推察しています。
 そのため、同種案件で他社がやっているからということで横並びに(懲戒)解雇を基本方針に据えることは労務管理上のリスクが大きいように思われます。

ホビージャパンのケースはどう考えるか

 翻って、今回のホビージャパン案件の退職処分についてはどう考えればよいでしょうか。
 今回、問題を起こした社員は正社員で勤務歴もある程度あるものと推察されます。そうであれば、SNS上で拡散してよいメッセージか否かは社会人の常識に照らし自分で判断可能だったとはいえるでしょう。
 他方で、仮に正社員で勤務歴も長いということになれば、会社から得られる給与で一家の生活を成り立たせているということであり、その地位をいきなり剥奪する不利益は極めて大きいものがあります。そのため、ホビージャパンのケースでは少なくとも解雇の相当性を逸脱しているように思われます。
 しかも、ホビージャパンの案件は現時点で会社に明らかな経済的損害が発生したともいえず、「バイトテロ」案件よりも悪質性が数段劣っています。
 そのため、ホビージャパンのケースでは、今回の退職処分(という名の解雇)の有効性が争われた場合、かなり会社側に分が悪いように思われます。
 使用者にとっては素早い判断で断固たる処分が必要だとは十分承知しているところですが、「バイトテロ」案件の「一般的な」処理方法を鵜呑みにするのではなく、まずは事前に弁護士に相談してほしいと願うところです。

 今回も最後までお読みいただきありがとうございました。