コラム

懲戒処分には「公平性」が必要-日本郵便事件高裁判決(札幌高裁令和3年11月17日・労働経済速報2475号3頁)-

詐欺・横領は立派な犯罪です。
自社の従業員がこれらの行為に及んだ場合、企業としては当然ながら重い懲戒処分を下すことになります。
その場合、懲戒解雇が選択されることも珍しくありません。
しかしながら、特定の職員の懲戒処分だけ殊更に重くすると「公平性」を理由に処分が無効とされてしまうことがあります。
今回は、そのような参考となる判例として日本郵便事件高裁判決(札幌高裁令和3年11月17日・労働経済速報2475号3頁)を取り上げます。

どんな事件だったか

本件は、約1年半の間に合計約100回・54万円強もの旅費の不正請求を行っていた原告が、被告から懲戒解雇されたため、その懲戒解雇の無効を主張して労働者としての地位の確認や賃金の支払を求めたという事件です。
高裁は原告の控訴を認めて懲戒解雇を無効と判断しました。

認定された事実

本件で裁判所が認定した事実の概要は以下のとおりです。

  1. 原告、平成4年4月1日にて正社員として勤務開始

  2. 原告、平成22年9月から保険担当の「広域インストラクター」に就任。「広域インストラクター」は、北海道内全域の郵便局を訪問して窓口社員に対して保険営業の技術、知識を指導する立場

  3. 原告、平成27年6月12日から平成28年12月28日まで100回にわたり出張旅費合計194万9014円を請求。そのなかには①「被告会社の給油カードで給油したにもかかわらず公共交通機関の旅費を請求したケース」(95回)、②「クオカード付の宿泊プラン価格で旅費を請求」(8回)、③「駐車料金を上乗せした宿泊価格で旅費を請求」(7回。社用車で出張したことを隠すため)などの不正請求があった。この旅費請求で原告が不正に受給した金額は52万1400円+クオカード代2万1000円だった。

  4. 原告以外にも、約3年6か月間の間に247回にわたり合計約28万円を不正受給したことを理由として停職3か月の懲戒処分を受けた職員などもいた。

  5. 営業インストラクターが出張して局員に指導した際には懇親会が開かれることが多かった。その際、営業インストラクターらは不正受給で得た金品で景品などを購入することがあった。原告も、不正に取得したクオカードを懇親会の差し入れなどに使用していた。

  6. 平成29年9月22日、原告不正受給を認める。

  7. 平成29年10月18日、原告、不正受給額54万2400円を被告に返納。

  8. 被告、平成30年7月22日付で原告を懲戒解雇

裁判所の判断

  1. 原告の行為は会社の「金品を詐取した」または「虚偽の申告をなし諸給与金を不正に利得した」ものとして懲戒事由に該当する。

  2. 被告の懲戒規程によると、原告に適用される処分は「金品を詐取した」場合には原則として懲戒解雇か諭旨解雇で「虚偽の申告をなし諸給与金を不正に利得した」場合は原則として停職から減給

  3. 原告と同様に不正受給した営業インストラクターは他にも10名いるが、そのなかで最も重い処分で停職3か月にとどまる。

  4. 原告以外に懲戒解雇となった広域インストラクターが2名いるが、その不正請求の方法は自らが親しくしているホテルなどから未記入の領収書を取得して宿泊日数・金額などを偽造するという原告の行為と比べても極めて悪質なもの。また、この2名の不正受給額は約149万円(回数57回)ないし約223万円(回数67回)と金額も高い。そのため、この2名に対する処分は原告への懲戒解雇の理由にならない。

  5. 原告の不正受給額は他の非違行為者よりも多いが、回数はむしろ少ない。

  6. 原告の1回当たりの不正受給額は5000円程度にとどまっている。

  7. 原告は不正受給を懇親会などに充てている。そして、懇親会は非公式ではあるが業務の延長という意味合いがあった。

  8. 以上のような事情を総合考慮すると、原告の行為の悪質性は停職3か月の処分を受けた他の不正受給者と同程度に止まる。

  9. そのため、原告の行為は「虚偽の申告をなし諸給与金を不正に利得した」に該当するものと扱うのが妥当。

  10. したがって、原告に対する懲戒解雇は重すぎるものとして無効。

判決に対するコメント

不正受給は厳罰が基本であることに変わりないものの、他の不正受給者に対する処分との「公平性」が結論を決めたという印象です。

前提として、懲戒解雇は社内における非違行為への制裁であることから同法15条による規制を受けます。
また、この「非違行為への制裁」としての性質から、懲戒処分を下すに当たっては刑事訴訟に準じた「適正手続」が保障される必要があります。そして、「適正手続」のなかには、同等の内容の非違行為には同レベルの懲戒処分が下されるべきという「平等原則」があります。

本事例は、この「平等原則」のから見た場合、停職3か月の処分に止まった職員との間で明らかに不均衡があることを重要視して懲戒解雇が無効になったものと評価できます。

というのも、原告の行為が被告の懲戒規程上懲戒解雇か諭旨解雇となる「会社の金品、職務上取り扱う金品等を・・・詐取した者」に該当し得ること自体は高裁も認めていたからです。
その上で、高裁は、飽くまで他の非違行為者との比較で違反回数が少ない、あるいは不正受給した金品の使い道に悪質性が弱いため本件では「虚偽の申告をなし諸給与金を不正に利得した」の方を適用すべきとの判断をしています。

もっとも、高裁は傍論で被告の経理が杜撰だったこと、原告が成績優秀者として長年にわたり被告に貢献してきたこと、今回が初めての懲戒だったことなどを「酌むべき事情」として挙げています。
ここで、もし「酌むべき事情」により今回の懲戒処分を軽減すべきだったという考え方の場合、判決の内容は「本当は懲戒解雇相当だが「酌むべき事情」により停職3か月に処分を減ずるのが相当」というような書き方になっていたはずです。
しかしながら、高裁はこれらの事情を挙げた直後に「本件非違行為の態様等は、・・・最も重い停職3か月の懲戒処分を受けた者と概ね同程度」と再度述べています。
このような判決理由の言い方からすると、高裁の考えとは「酌むべき事情」の有無にかかわらず、そもそもの行為の重さが停職3か月の職員と同程度であるため、それ以上の処分を下すことは不合理であるという点に尽きそうです。その結果、今回の「酌むべき事情」は処分の重さに影響を与えていないというのが私の解釈です。

以上から、この事例は非常に特殊な条件下で不正請求に対する懲戒解雇を無効とした事例判断であって、この裁判例をもとに不正受給一般に対して「金額が少なければ問題ない」「使い方に業務性があればよい」と捉えるのは大きな誤りだと感じました。
当然ながら、金額の多少にかかわらず故意の不正請求は厳に慎むべきであることに変わりはないようです。

最後に

以上、日本郵便事件高裁判決を取り上げました。
繰り返しになりますが、懲戒処分は企業内における刑事処分としての性質をもっているため、刑事訴訟に準じた公平で厳密な手続が求められます。

今回の事例では、原告の行為は詐欺行為であるため懲戒解雇が有効となる可能性も十分にありました。
実際、今回の事件の地裁判決(札幌地裁令和2年1月23日)は原告への懲戒解雇を有効としていました。
もしかしたら、日本のなかの少なくないサラリーマンが、使ってもいない公共交通機関の料金やクオカード分を上乗せした宿泊料金を請求しているかもしれません。
しかしながら、これらの行為はれっきとした詐欺行為です。「赤信号、みんなで渡れば怖くない」は通用しません。

他方で、非違行為自体が悪質であっても、非違行為者間で処分の重さのバランスを欠いてると今回のように懲戒処分が無効とされてしまうリスクが高まります。
しかも、一度懲戒処分の無効が確定すると「一事不再理」の考えにより再度の懲戒処分を下すことができなくなります。
そのため、企業としては、非違行為があった場合の証拠保存・事実調査・弁明手続などの諸手続を整備し適正に運用していく必要があります。

今回の裁判例は懲戒処分をめぐる「公平性」を学ぶ上で非常に有用な事例だったと思います。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。