コラム

解雇後の生活はどうする? 収入確保のために知っておきたい知識3つ

【本記事は以下の動画の原稿を掲載したものとなります】

はじめに

今回は「不当解雇と闘う」シリーズの第3回目として、「不当解雇後の収入確保」というテーマでお送りします。

これまでの動画では、会社側から一方的に解雇された場合、労働者側としては解雇無効とその時点までの給料の支払を請求するのがセオリーだというお話をしました。

しかしながら、会社側と争うとしても、まず対処しなければならない問題が、どのようにして解雇が無効となるまでの収入を確保するかという点です。

この点について、当解雇事案では、会社側から「解雇を受入れるなら会社都合の退職になるので雇用保険が早く受給できてトクだぞ」という誘惑がされます。

また、不当解雇を争う場合には他で就職して働いてはいけないと誤解しているケースもあります。

しかしながら、実は解雇を受入れられなくても雇用保険を受けることはできます。

また、不当解雇を争う事案でも、他で就職しながら収入を得ることに問題はありません。

今回は、このように不当解雇後に収入を確保するために知っておきたい知識を3つ、お伝えいたします。

収入確保のための知識1つ目:不当解雇を争う場合でも雇用保険は受給できる

収入確保のために知っておいてほしい知識の1点目は、解雇の効力を争っている場合でも雇用保険を受給することはできるという点です。

まず前提として、そもそも雇用保険がどのような保険なのかを確認しますととは、雇用保険(そのなかの失業給付の基本手当)とは失業、すなわち職を失った労働者に対し、再就職をするまでに必要となる生活費を補うための保険です。

そのため、雇用保険を受給するためには、失業していること、つまり、既に退職をしていることが必要というのが原則です。

これに対し、解雇無効を争うということは、自分には今も労働者としての地位がある、職は失っていないと主張することになります。

そうすると、原則論からすれば解雇無効を争っている場合には雇用保険を受給できないということになるはずです。

しかしながら、労働者側が民事訴訟などで解雇を争っている場合には、解雇が有効か無効かは裁判が終わるまで分からないわけで、その間、ずっと雇用保険を受給できないということになると労働者側の生活が成り立たなくなります。

そこで、雇用保険の実務では、「業務取扱要領」という内部基準に基づいて、労働者が裁判所などで解雇の有効性を争っていることを明らかにしながら基本給付の受給を希望することを明らかにし、実際に民事訴訟や労働審判などで争っている場合に、雇用保険の受給を許すという取扱いをしています。

その上で、労働者側から、雇用保険の「仮給付」つまり仮に雇用保険の給付を受けるという申請をすることで、解雇無効を争っている場合でも雇用保険を受給できるようになります。

これが、不当解雇後に収入を確保するために知っておきたい知識の1点目「不当解雇を争う場合でも雇用保険は受給できる」でした。

収入確保のための知識2つ目:雇用保険の給付には注意点もある

収入を確保するために知っておきたい知識の2点目は、「雇用保険の受給には注意点もある」です。

先ほど、解雇の無効を争う場合でも雇用保険を受給できるというお話をしましたが、この給付には若干の注意点があります。

まずは、雇用保険の仮給付は民事訴訟や労働審判などを実際に提起していないと利用できないという点です。

そのため、あくまで示談交渉で解雇の無効を主張にしているに止まっている場合には雇用保険を利用することはできないとされています。

次に、この雇用保険の仮給付は飽くまで「仮」の給付なので、解雇が無効となって復職した場合には、既に支給された金額を返還する必要があります。そのため、会社から解雇無効までの給料の支給を受けたときは、その一部をハローワークに返す必要があります。

このように、雇用保険の仮給付には注意点もあるので実際に活用する際には弁護士やハローワークに事前相談しておくことをおすすめします。

以上、収入を確保するために知っておきたい知識の2点目「雇用保険の給付には注意点もある」でした。

収入確保のための知識3つ目:不当解雇を争っている間でも他で就職しながら収入を得て良い

不当解雇後に収入を確保するために知っておきたい知識3点目は、「不当解雇を争っている間でも他で就職しながら収入を得て良い」です。

これまでは不当解雇後に雇用保険を受給するためにはどうすればよいかという点をお話ししましたが、実際には、解雇後間もなく新しい仕事先が見つかるという場合も少なくありません。

その場合に、よく相談者からは他のところで仕事しても問題は起きないですかという相談を受けます。

その答えですが、トラブルが起こることはあるが仕事をすること自体は問題ないのでオススメするというものです。

まず、解雇無効とその時点までの給料の支払の請求が認められた場合に、他の仕事先で得られた給料はどうなるのかという点ですが、これは過去に「あけぼのタクシー事件」という有名な最高裁判決があります(最高1小判昭和62年4月16日)。その内容をざっくり一言で言うと、労働者側は他で収入を得ていても元の勤務先から給料の6割は請求することができるというものです。

そうすると、労働者側としては新しい仕事先で収入を得ながら、元の勤務先からも給料の最低6割は請求できることになりますので、他で仕事をして収入を得る方がメリットが大きいということになります。

若干、注意しなければならないのは、新しい仕事先で正社員として採用されて前の職場よりも高い給料を支給されているという場合には、もはや労働者側も復職する意志を失ったとして元の職場への給料の請求が認められなくなることもあるということです。

ただ、この点も、最近、新日本建設運輸事件というケースの東京高裁判決が、今言ったような理屈で支払を拒絶することはできないということを言ってくれています(東京高判令和2年1月30日労働判例1239号77頁)。

なので、労働者側弁護士としてはこのような新しい裁判例を指摘しながら裁判所に安易な賃金カットを認めないように働きかけるということになります。

いずれにしても、労働者側としては他の仕事先で収入を得ることについて少なくともデメリットはないわけなので、働けるのであれば新しい職場で働く方がよいということになります。

以上、収入を確保するために知っておきたい知識の3点目「不当解雇を争っている間でも他で就職しながら収入を得て良い」でした。

最後に

以上のとおり、今回は「不当解雇と闘う」シリーズの第3回目として、「不当解雇後に収入を確保するために知っておきたい知識の3つ」というテーマでお話をしました。

もう一度今回お話しした内容を簡単にまとめますと、最初の1点目では解雇無効を争う場合でも雇用保険は仮給付という形で受給が可能という話をしました。

次の2点目では、雇用保険の仮給付を受けるためには民事訴訟や労働審判などの裁判手続をする必要があること、また、雇用保険の仮給付は飽くまで仮の手続なので解雇無効と未払の給料の支払がされたときには受給した分を返還する必要があるなどの点で注意が必要という話をしました。

最後の3点目では、解雇無効を争いながら他の仕事をして収入を得ることは、後で若干問題になることはあるものの、労働者側にデメリットはないので是非オススメしているというお話しをしました。

不当解雇後にも収入を確保する手段はありますので、解雇で悩まれている方は労働問題を扱っている弁護士や、雇用保険の問題についてはハローワークの方にも相談しておくことをおすすめいたします。

それでは今回は以上とさせていただきます。次回の動画でまたお会いしましょう。さようなら。