解雇・退職」カテゴリーアーカイブ

「パワハラ」と「業務指導」の境界

企業にはいろいろな人が集まります。
それは同時に、一定の割合で「問題社員」が混ざることも避けられないということも意味します。
この場合、企業側は適切に「業務指導」を行なう必要がありますが、行き過ぎると「パワハラ」になってしまいます。
この両者の境界をどう考えるか。
今回は、そのような問題を考える近時の題材として東武バス日光ほか事件(東京高判令和3年6月16日・労働判例1260号5頁以下)を取り上げます。

本件は一審被告の労働者である一審原告が、一審被告から受けた退職強要や人格否定の発言により精神的苦痛を受けたとして一審被告会社に対して慰謝料及び弁護士費用として合計220万円を請求した事案です。
これに対し、高裁は慰謝料20万円+弁護士費用2万円の限度で原告の請求を認めました(以下では「原告」と「被告会社」という表記をします。)。

本件の事実経過は以下のとおりです。

  1. 平成28年9月、原告が被告会社に入社。以降バス運転手として勤務。

  2. 平成30年8月31日、原告、バス運転中に乗客の男子高校生に「おまえ、次、ぜっていやんなよ。頭出したろ。ふざけてて。次、殺すぞマジで。」との発言を行なった。

  3. 令和元年7月16日、原告、バス運転中に、乗客の女子高生が降車に際して料金箱に回数券を投入した際、「君、回数券さ、折りたたんでいけないって知らない。知らなかった。じゃあ気を付けようか。じゃあ、担任の先生の名前と学年主任の名前とクラスと番号、教えて。」との発言をした。

  4. 同日夜、当該女子高生の保護者から被告会社宛に不正乗車扱いされたことについて苦情。

  5. 令和元年7月22日から24日までにかけて被告会社と原告との間で上記各発言について話合い。その際、被告会社側が原告に対して退職勧奨をしたところ、原告が拒否的態度を示したため「男ならけじめをつけろ」「他の会社に行け」「退職願を書け」などの発言を行なう。

  6. また、この話合いの過程で、被告会社は原告に対して「チンピラ」「雑魚」「クソ生意気なことこきやがって」「もう客商売よしたほうがいいよ」「もう会社ではいらないんです。必要としてないんです」などの発言を行なった。

判決の要約

高裁判決は、被告会社側がとった行動のうち、退職強要に係る上記5の行為についてだけ違法性を認めました。 その理由は次のとおりです。

違法な退職強要か否かの判断基準

この点につき、裁判所ははそもそも退職をするかしないかは労働者の自由であることを理由に

「その内容及び態様が労働者に対し明確かつ執拗に辞職を求めるものであるなど、これに応じるか否かに関する労働者の自由な意思決定を促す行為として許される限度を逸脱し、その自由な意思決定を困難にする場合」に違法となる
との基準を示しました。

本件における違法な退職強要の有無

その上で、裁判所は、被告会社による退職勧奨について、「繰り返し辞職を迫り、考慮の機会を与えないままその場で退職願の作成等の手続をさせようとした」点で上記の基準から違法というほかないとしました。

違法なパワハラか否かの判断基準

この点について、裁判所は

① 労働者の職責
② 上司と労働者との関係
③ 労働者の指導の必要性
④ 指導の行なわれた際の具体的状況
⑤ 当該指導における発言の内容・態様、頻度等

の要素に照らし、社会通念上許容される業務上の指導の範囲を超え、労働者に過重な心理的負担を与えたといえる場合には違法となる
との基準を示しました。

本件における違法なパワハラの有無

その上で、裁判所は、本件では上記6の発言について

  • 原告に対する指導の必要性が極めて高かったこと

  • 被告会社側会社の上記6のうち「チンピラ」「雑魚」の発言は、原告が男子高校生に「殺すぞ」と発言したり見下したりするのはチンピラであり、被告会社にチンピラないしそれと同視できる雑魚とは不要であるという趣旨で発言したのであって、業務上の指導と無関係に原告の人格を否定するものとはいえないこと

を理由に違法性を否定しました。

判決へのコメント

判決への感想

退職勧奨、パワハラの違法性の判断基準・考慮要素については概ね賛同できます。
しかしながら、パワハラ発言の違法性を否定したのは甘いのではないかと感じました。

今回の判決では、「⑤当該指導における発言の内容・態様、頻度等」の要素が最後に挙げられています。
しかし、本来であればこれが一番に重要な考慮要素であって、発言内容自体が明らかに人格否定を伴うものでであれば、それだけで違法性は認めて良いように思われます。

また、高裁判決は、上記発言6の違法性を認めなかった理由について、その発言が業務上の指導とは無関係に原告の人格を否定するものではなかったという点を挙げています。
これに対しては、うがった見方をすれば、裁判所は「業務上の指導と関係があれば労働者の人格を否定してもよい」としているように読めてしまいます。

しかしながら、人格否定発言が業務上の指導として必要な場面は存在し得ないのではないでしょうか。

この点、一審判決は上記6の発言に違法性を認めていました。結論としてはそちらの方が妥当だったように思われます。
少なくとも、今回の高裁判決の当てはめ方は一つの参考事例程度に考えておいた方が無難であると考えます。

ただし、人格否定とまではいかない発言で、「業務指導」か「パワハラ」のどちらに当たるかが微妙なケースでは今回の判決の基準は妥当だと感じました。

会社はどう対応すれば良かったか

とはいえ、被告会社からすれば一部でも違法性と損害賠償が認められてしまったわけで、納得がいかないのは当然です。
それでは、被告会社は今回のケースでどう対応すればよかったのか。
私なりに考えるところを述べてみます。

懲戒処分を検討すべきだったのでは

本件での原告の発言が極めて物騒であって乗客に恐怖心を与えるものであること、被告会社にとっても信用問題になる重大事案であったことは間違いありません。
そうだとすると、被告会社からすれば処分の軽重はともかく、原告から反省の姿勢が見られない時点で社内手続に沿って粛々と懲戒処分をすべき事案だったと考えます。
きちんとした手順を踏めば、少なくとも戒告程度であれば十分に有効に下せたはずです。

きちんと手順を踏んだ懲戒処分を行なうことは、被告会社にとってもメリットがあります。なぜなら、重大な手続を行なうということで原告への対応が慎重になり今回の「言い過ぎ」を防ぐこともできたからです。

また、原告にとっても、事態の大きさを自覚させ行動の改善につながることが期待できたかもしれません。
もちろん、その程度では改善につながらない場合も想定されます。しかしながら、その場合は指導と懲戒を重ねるという対応にならざるを得ません。

少なくとも、今回のように頭ごなしに退職強要や侮辱的発言を行なったところで原告の行動改善につながることは期待できないことは間違いありません。
そうだとすると、「信賞必罰」の精神で淡々と懲戒と指導を行なうという対応の方がはるかに適切で効果的であるように思われます。

解雇に踏み切らなかったのは適切だった

ところで、本件の判決を読んだ限り、原告はこの判決時も被告会社に在籍しているようです。
この点、労働者が退職勧奨に応じない時点で直ちに解雇に踏み切ってしまう企業が多く見られます。
しかし、そのような解雇は労働者による指導を尽くしていないものとして解雇権濫用とされてしまうリスクが極めて大きいです。

今回の原告にしても、行動改善の機会なく解雇すれば、まず解雇は無効とされたでしょう。
そのため、原告を解雇しなかった部分では被告会社の対応は適切で参考になります。

最後に

今回のように「問題社員」への対応に苦慮し、結果、「言い過ぎてしまう」というケースはしばしば見受けられます。
しかし、「売り言葉に買い言葉」的な対応をとると、本件のように違法なパワハラとして法的責任を追及されることもあります。

もちろん、企業としては腹立たしいことも多いと思います。

しかしながら、そういうときこそ、企業は、企業秩序維持と労働者の能力開発という上位の概念に立ち返り、非違行為については粛々と懲戒処分を行ないつつ、その後は日々の業務指導で改善を促すという作業を積み重ねていく姿勢が大切となります。
今回のケースは、企業も組織全体としてアンガーマネジメントに取り組んでいく必要があることを学ばせてくれる判決だったと感じました。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

テレワーク希望、企業はどう対応すべきか

はじめに

新型コロナウィルスの猛威が続いています。
このコロナ禍でテレワークという言葉がすっかり一般化しました。
実際に中小企業でもテレワークを導入したという企業も少なくありません。
もっとも、テレワークは職員同士のコミュニケーションが不十分になったり、プライベートとの境界が曖昧になったりするという問題もあります。
そのため、企業によってはテレワークをあまり採用したくないという所もあるでしょう。
しかしながら、もし、労働者側から「新型コロナの感染が怖いのでテレワークを導入してほしい」という要望があったら企業はどう対応するべきでしょうか。
今回は、そのような場合に企業に求められる配慮について示したロバート・ウォルターズ・ジャパン事件(東京地判令和3年9月28日)を取り上げます。

 

事案の概要

本事例は、情報システム開発業務を担当する派遣労働者である原告が、派遣先企業に対して新型コロナウィルス感染対策として時差出勤やテレワークを求めたものの、派遣先より拒否され、さらに労働者派遣契約が終了したことから派遣元企業である被告会社に雇止めをされたという事案です。
原告は、被告会社が派遣先にテレワークの実施を求めるべき義務を履行していないことが安全配慮義務違反に当たるとして雇止めの無効を主張しました。
これに対し、裁判所は原告の請求を棄却しました。

 

事実経過

本件の事実経過は次のとおりです。

  1. 令和2年2月25日、原告と被告会社との間で雇用期間約1か月(=令和3年3月31日まで)とする有期雇用契約を締結。

  2. 派遣先企業に原告が派遣される(業務開始日は令和3年3月2日)。担当業務は情報システム開発で、就業時間は午前9時から午後5時30分まで。

  3. 令和2年2月下旬、原告、新型コロナウィルスへの感染が不安であることを理由に時差出勤と在宅勤務を認めるよう被告会社を通じて派遣先に申し入れ。

  4. 派遣先からは、「オン・ボーディング」(新たなメンバーに職場に慣れてもらうためのサポート等)をする必要があり、業務用のノートPCを渡したり、チームメンバーに会ってもらったりする必要があることからオフィスに出勤する必要があるとの回答。

  5. 同日、派遣先より、3月2日については午前10時の時差出勤を認めるとの回答。

  6. 令和3年3月2日、原告は午前10時に派遣先に出勤。同日、派遣先との間で以降の出勤時刻を午前10時とすることが確認される。

  7. 令和3年3月10日より、原告が(独断で)在宅勤務を開始。その際、原告は始業時刻を午前7時、終業時刻を午後3時30分とする時差勤務も(独断で)行う。

  8. 令和3年3月16日、派遣先より原告の在宅勤務を打ち切り、午前9時より出勤するよう要求。

  9. 令和3年3月19日、派遣先は被告会社との労働者供給契約を更新しない旨を通告。これを受け、被告会社は同日、原告に雇止めの通知を行う。

判決理由の要約

裁判所は次のような理由で原告の請求を棄却しました。

安全配慮義務違反について

  1. 新型コロナウィルス感染に不安を覚える者が少なからずいることはうかがわれる。

  2. しかし、当時は新型コロナウィルスへの知見も十分ではなく、通勤による感染の可能性やその危険性の程度は不明であった。

  3. そのため、被告会社が派遣先に在宅勤務を求めなかった行為は安全配慮義務違反とならない。

  4. また、被告会社は、派遣先に対して時差出勤や在宅勤務の要望を伝えており、その結果、出勤時刻の繰り下げは速やかに実現していた。

  5. そのため、原告が主張するような安全配慮義務が存在するとしても、被告会社に義務違反はない。

雇止めの有効性について

この点については雇用期間は約1か月であり1回も更新されていなかったこと、更新を予定した条項も定められていなかったことなどから、契約継続に対する合理的な期待はないとされ、雇止めは有効と判断されました。

 

判決へのコメント

コロナ禍における使用者側の安全配慮義務について

使用者には営業の自由があります。
そのため、使用者は労働者との契約または人事権に基づき労働者の出退勤の時刻や就業場所を指定することが可能です。
しかしながら、労働者は使用者の指揮命令に基づいて労務を提供する関係上、勤務先に潜むリスクを自分では回避することができません。
このことから、使用者は労働者の生命・身体の安全・健康を確保する安全配慮義務を負うこととされています(労働契約法5条)。
本件は、この使用者の営業の自由と労働者への安全配慮義務との間でジレンマが生じており、両者をどう調整するべきかが問題となります。

この点、本件の裁判例は、原告が主張する「派遣先に対して時差出勤を申し入れる義務」について、新型コロナウィルスの感染リスクや危険性が不明であったことを理由として否定しました。
しかしながら、新型コロナウィルスに相応の感染力があり、いったん感染が発生した場合には重症化リスクもあることは令和3年3月の時点で浸透しつつあったのではないかと思われます。
そのため、使用者側としては、低い確率ながらも職場内での新型コロナウィルス感染の可能性は認識できたのであって、そうであれば使用者には感染予防の対策を講じるべき義務が安全配慮義務違反の一内容としてあったというのが私個人としての意見です。
その意味で、感染可能性や重症化リスクの不明確を安全配慮義務の否定要素として扱った裁判所の判断には疑問があります。

 

本件事例における安全配慮義務違反の有無について

しかしながら、使用者側に安全配慮義務があるといっても、その内容は使用者の事業規模や業種、所属する労働者の人数、本来の就労場所によって千差万別です。
本件の場合、原告の就労方法を決めるのは飽くまで派遣先でした。そのため、被告会社に原告の就労環境について影響を与えるような活動を求めるのは少し酷に思われます。
また、派遣先が述べたような「オン・ボーディング」の必要性もそれなりに説得力があります。
さらに、時差出勤・在宅勤務を実現するとすれば、所属する全労働者の勤怠管理を一から見直す必要もあります。
これらの事情を総合すると、本事例においては、原告が主張するような被告会社に対し在宅勤務の実現を交渉させる義務を認めるのは難しかったと考えます。

しかも、被告会社は原告の時差出勤・在宅勤務の希望を派遣先に伝えており、実際に派遣先もいったんは時差出勤を認めていました。そのため、被告会社は当時可能な範囲で原告の健康・安全に配慮したと評価してよいように思われます。
以上から、本事例に限って見れば、被告会社は実現可能な範囲で原告に対する感染防止のための安全配慮義務を履行したものと評価してよいと考えます。

 

最後に

本事例は結論として使用者側が勝訴した事案ですが、安全配慮義務違反を問われたのが派遣元企業であったこと、また、派遣元が派遣先に原告の要望を伝えていたこと、原告は就労開始直後であり職場や同僚と馴染む必要があったことなどが結論に影響したと考えられます。
そのため、直接雇用で人員配置に融通が利く企業の場合には本件とは別内容の安全配慮義務が求められる可能性があるように思われます。
その場合、使用者側としては、営業を維持しながらどのように新型コロナウィルスのリスクを緩和するのかについて難しい舵取りが求められます。
仮に、使用者側が人事権を強調してリモートワークの要望を一蹴するような態度をとった場合、本判決にかかわらず安全配慮義務違反等の法的責任を問われる余地はあると考えます。
本件から得られる教訓とは、そのような難しい場面だからこそ、就労環境に対する労働者の意向を真摯に聴取した上、可能な範囲で対応をとり、それを丁寧に説明するという態度でしょう。
感染症なので「絶対の安全」はあり得ないのですが、少なくとも労働者と一緒に真剣に悩みながら次善策を検討するという姿勢は必要です。また、そのように労使が協働することはコロナ禍において生産性の高い企業体質を作り上げることにもつながっていくのではないかと思います。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

「ジョブ型雇用」、移行への課題

「ジョブ型雇用」とは?

最近、労働市場の世界では「ジョブ型雇用」という言葉が踊っています。

従来、日本の人事は新卒一括採用・年功序列・終身雇用による長期雇用システムが中心でした。
この日本型雇用システムは、社内のメンバー(社員)たちと長期にわたり協同して勤務していくことが特徴で、近時では「メンバーシップ型雇用」という呼称が使われています。

しかしながら、「メンバーシップ型雇用」ではゼネラリストは育てられてもスペシャリストは育てられず、そのために競争力を高められないと批判されるようになりました。
そこで提唱されるようになったのが、「ジョブ型雇用」とのことです。

しかしながら、「メンバーシップ型雇用」中心の日本で「ジョブ型雇用」を導入することには色々な課題がありそうです。

そこで、今回は「ジョブ型雇用」を導入するに当たり発生しうる課題をピックアップしてみることにしました。

課題①:労働条件の不利益変更への対応

「メンバーシップ型雇用」の賃金体系

新卒一括採用・年功序列・終身雇用という「メンバーシップ型雇用」では、何のスキルもない新卒者を長期雇用前提で「青田買い」し、その後に社内で必要な能力を育てていくことが想定されます。
また、「メンバーシップ型雇用」においては、賃金は勤続年数に応じて自動的に上昇していくことが想定されます。
これらの結果、従来の日本では若年層の賃金を低く抑える代わりに高年齢層の賃金を厚く保障するという手法が用いられてきました。

「ジョブ型雇用」に移行すると労働条件の不利益変更が生じる

これに対し、「ジョブ型雇用」とは、飽くまで職務内容に対して待遇が決まるという雇用形態です。そして、この雇用形態を貫徹する場合、高い賃金を得たければ高い価値の労務を提供する必要があるという帰結が導かれます。
しかしながら、職務遂行能力を赤裸々に評価すると、一般に高齢者になるほどその能力は下がるはずです。そのため、「ジョブ型雇用」の社会においては高齢者の賃金は低く抑えることが公平となります。
結果、「メンバーシップ型雇用」から「ジョブ型雇用」に移行すると必然的に多くの高齢者について労働条件の不利益変更が生じることになります。

労働条件の不利益変更は難しい

しかしながら、日本の法令や判例は「メンバーシップ型雇用」を前提に形成されてきました。
そのため、賃金といった労働条件の不利益変更については非常に高いハードルが課せられています。
一例として、就業規則で労働条件を不利益に変更しようとする場合には、労働契約法9条及び10条の定める要件を満たす必要があります。

具体的には、
①労働者の受ける不利益の程度
②労働条件の変更の必要性
③変更後の就業規則の内容の相当性
④労働組合等との交渉の状況
⑤その他の就業規則の変更に係る事情
に照らして就業規則の変更内容が合理的でなければなりません。

完全に不可能、とまでは言えなさそうですし、実際に職務給・成果型の賃金体系に移行した就業規則を有効とした裁判例にノイズ研究所事件(東京高判平成18年6月22日労働判例920号5頁)があります。

しかしながら、就業規則を変更するに際しての考慮要素が非常に多く、しかも実際に変更が有効かどうかは裁判所による判断を経るまで分からないという点で使用者には大変に使いにくい方法となっています。

そこまでして「ジョブ型雇用」を導入したいと考える企業が日本の社会内でどれだけあるかというと、疑問と言わざるを得ません。

課題②:配転・整理解雇はどうなるか

日本には厳しい整理解雇規制がある

次に、勤務先の業績が傾いたときの配転や整理解雇の場面でも「ジョブ型雇用」は難しい法的問題を含んでいます。
繰り返しですが、「ジョブ型雇用」ではジョブ(=職務)に対して待遇が決まります。
そのため、業績悪化により特定の職務が不要となった場合、その職務を担っていた労働者を解雇することは「ジョブ型雇用」の当然の結果となります。

しかしながら、「メンバーシップ型雇用」を前提とする日本の整理解雇規制法理によれば、使用者は整理解雇前に解雇回避努力義務を尽くすことが必要とされます。
このハードルを越えることは厳しく、実際に解雇回避努力義務の不履行を理由に整理解雇が無効にされた理由は多く見られます。

事実上の配転命令義務・職種変更命令義務が課される

しかも、「メンバーシップ型雇用」を前提とする日本において、労働者には特定の配属先は定められていません。使用者には広い裁量に基づき労働者を配転する権利があります。
結果、使用者は、整理解雇を行う際の解雇努力として事実上の配転義務を課せられることになります。
さらに言うと、職種を限定した労働者に対しても配転は可能とする事例もあります(最小1判平成元年12月7日・日産自動車事件)。
そのため、仮に「ジョブ型雇用」を採用した場合でも、事前に職種変更命令を行わないまま整理解雇を行えば解雇が無効になるリスクがあることになります。
このような状況で敢えて「ジョブ型雇用」を導入しようという機運が作られるか、と言うとやはり難しいと考えざるを得ません。

最後に

「ジョブ型雇用」は、これを導入するとバラ色の未来があるかのように喧伝するような記事が散見されます。
しかしながら、以上に述べたとおり「ジョブ型雇用」への移行には現行の日本の法的規制の下で難しい法的課題があります。
そのため、どうしても「ジョブ型雇用」を採用するという場合には、労働者への公明正大な情報開示と誠意ある説明は必要不可欠となりそうです。
労働法に詳しい弁護士らによる法務デュー・デリジェンスも必須となるでしょう。
「ジョブ型雇用」に興味を持たれる場合には、是非ともこのような課題を踏まえた上で採否を検討してほしいところと考えた次第でした。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

「解雇の金銭解決制度」に抱く懸念

このたび、以下のような報道が出ました。
解雇の金銭解決制度について労働者側だけが申し立てられる制度設計にするということです。

使用者側による申立てが許されるのかが気になっていましたが、それはなさそうで少しだけホッとしています。
しかしながら、依然として懸念事項はあるところなので、今回はその点を記事にしてみたいと思います。

「解雇の金銭解決制度」とは

一言で表すと、労働者にそれなりのお金を払って勤務先から去ってもらおうという制度です。
本来、解雇は①客観的合理性と②社会的相当性の要件を満たさない限り無効とされます(労働契約法16条)。
そして、解雇が無効ということであれば、労働者は依然として勤務先に対して労働者としての地位を主張して賃金を請求できることになります。

しかしながら、解雇紛争にまで至った労働者の復職を使用者側が快く迎え入れるかというと、そうはならないでしょう。
労働者側も、既に転職先が見つかっており実は復職を希望していない、ということはよくあることです。

そこで、このようなミスマッチ状態を金銭で解決しようというのが、本制度の狙いです。

一見、労使双方にとってメリットの大きい制度のように思えますが、労働者側弁護士からは強い反発があります。私も同様の懸念をもっています。

そこで、以下では私がもっている懸念についてお話いたします。

使用者側の安易な解雇を誘発してしまうのでは

一番の懸念は「解雇の金銭解決」という言葉が一人歩きして使用者側が安易に解雇に走りはしないかという点です。

今回のような労働者側だけが申立てができるという制度設計であれば、労働者側が制度を使うという意思表示をしない限り使用者は復職を認めるしかないはずです。

しかしながら、使用者側がこの点を「最後はお金を払えば良くなったんだろう」と曲解して解雇に対する心理的ハードルを下げてしまう可能性は懸念されるところです。

最低限、労働者側だけが申立てをできるということを広く周知する必要があるように思われます。

和解金の水準が低くなってしまうかもしれない

労働者側だけに制度の申立権があると言っても、実際に労働者側がこの権利を行使するということは復職の意向がないことを事実上表明することになります。

解雇トラブルで使用者が一番恐れるのは労働者に復職されて延々と賃金を支払う状況が続くという状況ですが、この申立権を行使するとそのような状況が回避されることになります。
結果、使用者側が和解金を買い叩くことになるのではないかと危惧しています。

復職をしない場合でも、和解金は労働者の生活再建に必要不可欠な資源となりますが、その水準が低くなると労働者のQOLに悪影響を与えかねません。

せめて、使用者側が解雇を躊躇してしまうくらいの高額な解決金額を設定してほしいところです。

将来的に使用者側の申立権も認められるのでは

今回の報道では労働者側にだけ申立権が認められるようです。
しかし、そのような制度設計がずっと続くという保障はどこにもありません。
そして、万が一にも使用者側に申立権を認めるような制度になれば、先にも述べたような「最後は金で」という軽い気持ちによる解雇が可能となってしまいます。
そのようなリスクが常にある社会において、労働者は安心して日々の生活を送ることができなくなります。
かえって日本全体の生産性も低下してしまうようにも思われます。

最後に

このように、「解雇の金銭解決制度」には多くの懸念点があります。
現行法制度でも、労働者側に大きな問題があったり、企業経営が本当に苦しくなった場合などには解雇が認められるところです。
そして、労働者の日々の安心を確保するという見地からすると、この程度の解雇規制はやむを得ないと考えます。
そのため、解雇を容易にするような今回の制度を設ける必要性が果たして本当にあるのかは強い疑問があります。
それでも制度を導入するというのであれば、せめて十分以上の金銭の支給を認めるなど労働者の生活不安が解消できるような設計をしてほしいと願うばかりです。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

退職代行VS弁護士 どっちがオススメ?

はじめに

ここ数年で退職代行サービスがすっかり一般化しました。
最近では勤務先からの慰留があるとまずは退職代行を利用するようアドバイスされるとのことです。
確かに、弁護士から見ても退職代行は費用対効果の面で使いやすい部分があると感じます。
ただし、注意しなければならない部分もあるので、今回はその点も含めて記事にしました。
退職代行の利用を考える際の参考にしていただければと思います。
なお、今回の記事は多分に私の伝聞や個人的な見解が混じっています。
その点を割り引いた上で、1つの読み物として参考にしていただければ幸いです。

そもそも退職代行とは?

一言で言うと、本人に変わって退職届を提出したり書類を授受してくれたりするサービスです。
基本的にはそれ以上でもそれ以下でもありません。
誤解されがちですが、退職届の作成人・差出人は業者ではなく飽くまで本人です。
退職届を提出した後の会社のやり取りも、本人がしなければなりません。

こういう話をすると

「えっ、退職代行業者って退職の交渉をしてくれるんじゃないの?」

という疑問をもつかもしれません。
しかし、業者が会社と「交渉」することはできないというのが建前となっています。
なぜなら、本人に代わって退職の「交渉」をするのは弁護士法72条が禁止する非弁行為に該当するからです。

ただ、実情として「伝言」や「連絡」といった名目で事実上会社と交渉してしまうケースは少なくないでしょう。というよりも、既に一般化してしまっているかもしれません。

退職代行利用時の注意点

先ほど書きましたとおり、退職代行を利用する際には弁護士法72条との関係でそれなりに制約がありますのである程度の注意が必要です。
具体的には次のような点です。

「交渉」は自分でしなければならない

先ほども触れましたが、本来、退職代行業者ができるのは退職届の提出を代行したり書類を授受したりすることだけです。
使用者側が「本人からの届出と確認できなければ受け付けない」と拒絶されてしまうと、改めて本人が提出をしなければならないということは理屈ではあり得ます。
この点、そのような使用者側の行動への対策として、最近は労働組合が本人を代理するという方法が用いられているようです。
しかしながら、これも法的に労働組合と言っていいのか?という問題があります。
なので、万が一使用者側が本人との直接交渉を迫ってきたら自分で対応しなければならないこともある、という点は予め認識しておいてほしいところです。

雇用保険で不利になる可能性

退職届は本人の意向に基づき作成されることから、退職理由はほぼ確実に「自己都合退職」となるでしょう。
その場合、雇用保険の給付の際に待機期間や給付日数などの点で不利益が生じることがあるので、その点を認識しておく必要があります。

残業代・労災で不利になることも

退職代行ができるのは退職届の提出や関係文書の授受だけです。
そのため、残業代や労災の請求が期待できる場合でも、本人に代わって交渉をしたり証拠を収集するといった活動はできません。
そのため、これらの請求が期待できるようなケースでは最初から弁護士に依頼する方が無難です。

傷病手当金を諦めなければならないことも

体調不良で出勤が難しい場合には、直ちに退職をするのではなく、まずは健康保険制度のなかの傷病手当金を利用するという選択肢があります。
傷病手当金を活用すれば、最大で通算1年半まで標準報酬月額の3分の2の保険金を受領することができます。
このように、傷病手当金を活用すれば、収入を確保しながら静養に努めつつ、使用者が定める休職期間が満了した時点で復職するか退職するかという選択をすることが可能です。場合によっては、さらに労災を請求するという選択も不可能ではありません。
しかしながら、退職代行ではそのような「交渉」は不可能です。
「可能であれば復職したい」、「まずはゆっくり休みたい」ということであれば、直ちに退職代行を利用するのは控えた方が良いかもしれません。
少なくとも、いったん傷病手当金の給付を受けてから退職する方が無難です。

最後に

このように、退職代行には弁護士法との関係で制約が生じます。
しかしながら、退職代行が「手頃な費用」と「迅速な処理」を武器に利用者のニーズを獲得してきた今日、私個人としては退職代行を使うべきではないなどとは全く考えていません。
ただ、上記のように弁護士に依頼することで残業代や労災、傷病手当金の受給や復職交渉といった対応も可能となります。
そのため、退職代行と弁護士のどちらを利用するのかは、負担するコストと手放すメリットを十分に考慮した上で決めていただきたいと考えています。今回の記事が、その参考資料となれば幸いです。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

雇止めから無期雇用への逆転劇

はじめに

今回はA学園事件(徳島地判令和3年10月25日・労経速2472号3頁)を取り上げます。
本件は、被告学校法人(大学)の図書室・視聴覚室の受付事務などの業務に従事していた有期雇用の原告が、平成30年3月31日をもって雇止めをされたことから、雇止めが労働契約法19条に違反して無効と主張した事案です。

これに対し、裁判所は原告の請求を認めました。

事案の概要

本事件の事実経過は以下のとおりです。

  1. 平成18年3月1日、原告は被告法人との間で期間1年間の有期雇用契約を締結。

  2. 以降、11回にわたり契約が更新される(1回ごとの契約期間は1年間)。

  3. 平成25年3月、被告法人の常任理事会にて平成25年4月以降における有期雇用職員の更新期間の上限年数を5年とする決議を行う。

  4. 平成25年4月1日、労働契約法18条が施行される(以降、通算5年を超えて勤務した場合に無期転換権を行使できるように)。

  5. 平成29年4月、次年度の更新につき「無」との雇入通知書が原告に交付される。

  6. 平成30年4月11日、原告から被告法人に契約更新の申し入れをしたが被告法人が拒絶。

  7. 平成30年10月2日、第1回口頭弁論期日。原告は無期転換権行使の意思を表示。

判決の要約

原告の契約更新に対する合理的期待について

まず、裁判所は労働契約法19条2号に基づく契約更新を認めるための合理的期待の有無について、次の要素を総合考慮して判断するとしました。

①当該雇用の臨時性・常用性
②更新の回数
③雇用の通算期間
④契約期間管理の状況
⑤雇用契の更新に対する期待をもたせる使用者の言動の有無

本件での合理的期待の有無について

次に、裁判所は本件で重要視した事実として以下のものを挙げ、本件では契約更新の合理的期待があるとしました。

  • 平成18年4月から平成25年3月までという契約更新期間は相当多数回かつ長期間(①、③)

  • 平成18年度から平成24年度までの間、契約の更新は5分から10分程度の簡単な手続で更新されていた(③、⑤)

  • 図書室業務は常用の業務である(①)

  • 原告の雇止めに至るまで、他の職員が雇止めされたことはない(①、④、⑤)

更新上限規定の有効性について

裁判所は次のような理由で被告法人が設けた更新上限規定の効力を否定しました。

  • 被告法人の更新上限規定は原告にとって不利益な労働条件の変更となる。

  • しかし、原告が自由な意思に基づいて更新期間の上限を承諾したという事実はない。

  • 以上から、本件では契約満了(平成30年3月31日)の時点でも原告に契約更新に対する合理的期待がある。

雇止めを行う合理的理由・社会相当性について

この点については、被告法人が原告の後任者を公募し、現に後任者を雇い入れていることを理由として不合理・不相当だとしました。
結果、原告に対する雇止めは無効とされました。

判決へのコメント

本件において被告法人は平成25年4月に有期雇用の契約期間を上限5年とする規定を定めました。
これは、当時施行された、5年を超える有期雇用労働者の無期転換権(労働契約法18条)の発動を防ごうとする意図によるものと推察されます。
すなわち、予め雇用期間の上限を5年までとしておけば、無期転換権の行使はできないという考えです。

しかしながら、少なくとも長期間継続して雇用されていた労働者については、本件のような更新上限規定が設けられた場合でも労働契約法19条2号により契約更新を認める傾向があります(一例として山口県立病院機構事件・山口地判令和2年2月19日労働判例1225号91頁)。

そのロジックとは次のとおりです。

  1. まず、対象労働者の勤務年数等を基礎に更新上限規定が設けられた時点で継続雇用に対する「合理的な期待」を有していたかどうかを検討する。

  2. そのような期待がある場合、労働者は労働契約方19条2号による契約更新の権利を取得する。そうすると、更新上限規定の創設は労働者に生じた既得権を奪うものとなることから、労働者にとっては労働条件の不利益変更となる。

  3. ここで、労働条件の不利益変更については労働者の真意に基づく同意が必要というのが近時の判例の傾向。

  4. そうすると、更新上限規定が有効となる場合にも労働者の真意に基づく同意が必要。しかし、労働者が更新上限という不利益を受け入れるということはほぼ考えられない。

  5. したがって、労働者は更新上限規定にかかわらず有期雇用を更新できる。

本件の裁判例は、上記のロジックを順序よく示しているため、同種の事案で労使双方にとって参照しやすいものとなっております。

最後に

以上のとおり、本件では更新上限規定の存在にもかかわらず、有期雇用契約の更新を認めました。
その結果、原告は労働契約法18条により無期雇用労働者としての地位も得ています。

この結果について、使用者側は理不尽という感想を抱くかもしれません。

しかしながら、一方で雇止めの選択肢がありながら長期にわたって雇用を継続しつつ、他方で法改正がなされるや更新上限規定で雇用を拒絶できるとするのは使用者側にとって都合が良すぎると思われます。

また、労働者においても既に同一の職場で勤務できるという期待が生じているなか、雇用安定を目的とする法改正によりその期待が奪われるのは背理です。

そのため、本件のような裁判所の判断は妥当だと考えております。

この裁判例を教訓に、長期雇用を行う場合と一時的雇用をする場合をきちんと意識した人事計画を構築することが望まれるところです。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

解雇無効時の賃金精算をめぐる一考察【新日本建設運輸事件・東京高判令和2年1月30日】

 解雇が無効となった場合、通常、使用者は、労働者に対し、使用者のもとで勤務できなかった期間についての未払い賃金の精算をしなければなりません(これを通称で「バックペイ」といいます。)。なぜなら、違法な解雇がなければ労働者は勤務先で就労して賃金が得られていたはずだったからです。
 なお、解雇期間中に他の所で就労して収入を得ていた場合には、その分だけバックペイは減額されます。ただし、その場合でも平均賃金の6割相当額の賃金は支払わなければならないとされています(曙タクシー事件・最1小昭和62年4月2日)。これにより、労働者としては違法な解雇をされた場合には、他で就労をしながら解雇無効・復職を請求するといった対応をすることが可能となります。

賃金精算の期間を制限する事例が出てきた

 もっとも、近年は同業他社で元の使用者と同水準以上の賃金が得られている場合には、だいたい解雇から1年から1年半程度を目処としてバックペイの支払い義務を打ち切るという扱いをする裁判例が散見されます。
 理由は、同業他社で長期にわたり就労して十分な賃金を得られるようになったことにより元の使用者のもとで就労する意向を失ったという点にあります。
 しかし、近年、この点について東京高等裁判所が注目すべき裁判例を出しました。

東京高判令和2年1月30日(新日本建設運輸事件)

 この事件は、違法無効な解雇をされた労働者が、労働者としての地位とバックペイを求めた事案です。
 同事件では、地裁の段階から解雇の無効が認められていましたが、地裁は原告労働者が同業他社にて就労し元の勤務先と同水準以上の賃金を得ていたことを理由に解雇日から約1年から約1年半を経過した時点で就労の意欲を失い、退職の合意が成立したとしてそれ以降のバックペイの請求を棄却しました。
 これに対し、高裁は地裁の判決を破棄し、判決確定日までの全ての解雇期間についてバックペイの請求を認めました。
 その理由について、高裁は「解雇された労働者が、解雇後に生活の維持のため、他の就労先で就労すること自体は復職の意思と矛盾するとはいえず、不当解雇を主張して解雇の有効性を争っている労働者が解雇前と同水準以上の給与を得た事実をもって、解雇された就労先における就労の意思を喪失したと認めることはできない。」としました。
 すなわち、地裁がいうような①一定期間以上の他社での就労、②解雇前と同水準以上の賃金の支給、の事実だけでは就労意思の喪失・退職合意の意思表示を認めるには足りないと判断したのです。

私の考え

 今回の事件に対する私の考えですが、私自身は高裁判決の方を支持しています。理由は次の3点にあります。
 第一に、「就労意思」や「退職合意」は、本来、労働者の主観・認識の問題のはずです。そして、労働者が就労意思の存在を認め、あるいは、合意退職を否定している場合に、そのような労働者の主張に反した認識がなお存在したものとみなすためには、よほど強力な証拠が必要とならなければならないはずです。何となれば、いったんは復職の意思が希薄となっていたとしても、解雇無効の判決が出たことをきっかけに復職の意思が再度強くなるということも十分あり得るように思われます。少なくとも、裁判所が一刀両断で労働契約を終了させるのは行き過ぎなのではないかと考えます。
 次に、解雇無効による地位確認・復職が認められる場合に、実際に復職をするか否かは労働者側が自己決定すべき問題のはずです。そして、労働者において実際には就労意思が存在しないという場合には、労働者には解雇無効による復職をした後、直ちに辞職をすれば足りると思われます。この点からも、解雇後1年とか1年半後を目途に半ば自動的な退職を認める地裁の判断は、使用者側に対するお節介が過ぎると感じます。
 さらに、解雇後1年から1年半程度でバックペイの支払義務を免れることができるという通念が成立してしまっては、ひとまずは解雇を先行させ、然る後に就労意思の不存在・合意退職を主張して労働者に不安の種を植え付けてつつ、労働者側に不利な内容の和解でトラブルを回避するというような方針を認めてしまいかねません。そのようなことになると、司法が違法な解雇を助長することになってしまいます。
 以上の3点から、私としては今回の高裁判決を歓迎すべきものと考えます。

最後に

 とはいえ、今回の判決は下級審の一事例に過ぎないことから、これをもって裁判所の取扱いが大幅に変わるということにはなりません。
 ただ、労働者側としては、同種事例において本件の裁判例を積極的に引用し、裁判所に対して安易なバックペイの打ち切りに強く警鐘を鳴らす必要があります。その意味で、これからの労働者側弁護士の努力が求められる裁判例だと考えさせられました。

 今回も最後までお読みくださりありがとうございました。

その退職意思、本当に真意?

これまで当ブログでは、何回かにわたり「解雇は難しいよ」という話をさせていただきました。使用者の方々にとっては非常に耳が痛い話だと思います。
 ところで、こうも解雇が難しいと、「だったら自主退職させればいいじゃん!」というアイディア(?)が浮かぶかもしれません。
 今回は、それもダメですよという話をさせていただきます。

労働契約の終了についての整理

 最初に、労働契約の終了をめぐる法律関係を考えるに当たっては、いくつかの概念を整理しておく必要があります。
 無期雇用を前提にお話をすると、使用者側から契約を解除する場合を「解雇」、労働者側から契約を解除する場合を「辞職」、労使双方の合意で契約を終了する場合を「合意退職」と整理することが多いです。
 このうち、解雇については労働者側の意向を無視して行われる契約解除であることから、解雇権濫用法理(労働契約法16条)による厳しい規制が明文で設けられています。

労働者側からの解約については明文上の規制がない

 これに対して、辞職と合意退職については、労働者自身の意思で行われる契約解除であることから、そのような厳しい規制はありません。
 それどころか、辞職については、労働者の職業選択の自由を保障する観点から、退職の自由を広く認めるべきであるというのが法制度上の建前です。
例えば、労働者側からの随意の解約申入れ(民法627条1項)や事前提示された労働条件の差異を場合の即時解約権(労働基準法15条2項)は、労働者側における退職の自由の尊重の表れといえます。
 しかし、労働契約の終了原因を解雇とそれ以外とに分け、前者にだけ厳しい規制をかけるという方法は、労働問題を取り扱っている弁護士としては強い違和感を覚えます。
 というのも、冒頭でも述べたような、「解雇が無理だから自主的に退職させよう」という使用者が少なからず存在するからです。そして、使用者側から退職勧奨された場合、労働者側も唯々諾々と退職届を提出してしまうということも少なくありません。
 このような場合に、辞職、あるいは合意退職だから何の規制もかけられないよね、ということになると解雇規制の抜け道に使われることは必定です。
 そこで、最近では労働者側からの辞職や合意退職の申込みに対しても、その有効性を制限的に考える裁判例が登場するようになっています。

「明確な意思」の要求

 最近の有名裁判例では、博報堂事件(福岡地判令和2年3月17日)がこの点についての判断を行っています。
 この事件は、1年の有期雇用を29回にわたって更新してきた後に雇止めがされたため、「雇止め法理」に基づきその雇止めの無効を争った裁判です。結論としては労働者側の勝訴で終わっています。
 ところで、この事件では、労働者側から使用者側に対して、「平成30年3月31日以降は契約を更新しない」ことが明記された労働契約書が差し入れられていました。しかも、判決では、労働者側はこの契約書の内容を十分に理解した上で署名押印したことが認定されています。
 それでも、判決は労働者側が労働契約を終了させることについて「明確な意思」がないと判断しました。判決は、その理由として「雇用契約を終了させることは、その生活面のみならず、社会的な立場等にも大きな変化をもたらすものであり、その負担も少なくないものと考えられる」ため、「雇用契約を終了させる合意を認定するには慎重を期す必要があり、これを肯定するには、原告の明確な意思が認められなければならない」というものを挙げています。
 要するに、労働者側から会社を辞めることへの同意を書面で得たとしても、それが労働者側の本心から出たものと認められなければダメというものです。

「合理性」と「客観性」の要求

 では、この「明確な意思」とは、どのような基準で判断されるものでしょうか。この点については、山梨県民信用組合事件最高裁判決(最小2判平成28年2月19日)が参考になると思われます。
 この事件では、賃金・賞与額を減額する改定を行った就業規則の有効性が争われましたところ、対象労働者たちは当該変更内容を承知の上でその変更に同意する旨の書面を差し入れたという事情がありました。
 しかし、最高裁は結論として当該同意の効力を否定しました。
 その際、最高裁が用いたロジックは、「労働者側は労使のパワーバランスで不利益な労働条件変更も受け入れてしまいがちである、なので、その有効性については同意の内容や同意書が作成されるまでの経過、事前の情報提供の有無といった外部状況から判断して「合理的」と「客観的」に認められるかで判断する」というものでした。
 先にも書きましたとおり、この山梨県民信用組合事件は、労働契約の終了場面について述べた事例ではないため、その論理を直ちに辞職や合意退職に当てはめられるとは限りません。しかし、労働契約の終了とは、労働者にとっては収入の途が閉ざされることを意味することからすれば、なお一層最高裁の考えが妥当するということもできます。
 そして、近時の裁判例は、単に退職届や退職合意書が提出されればOKとするのではなく、当該書面が提出されるに至った経緯といった外部状況を重視する(その上で、退職する真意はなかったと判断する)傾向が強くなっています。先の博報堂事件も、その流れのひとつと言えます。

使用者側が注意しておくべきポイント

 以上のとおり、現在では「労働者から退職届などが提出されたからもう大丈夫」という時代ではなくなりました。「あれは無理矢理書かされたものだから無効だ」と言われた場合、使用者側は敗訴する可能性を現実に覚悟の上で訴訟対応する必要があります。
 では、使用者側が注意しておくべきポイントとは何でしょうか。
 結論としては、労働者を解雇する場合と同様です。
 経営悪化で人件費を削減する必要がある場合には、会社の収支や人件費意外の経費節減策について十分に説明し、代償措置も講じた上で退職に納得をしてもらうということが必要でしょう。
 また、業務遂行や対人関係に問題があり職場環境を乱している労働者に対しては、逐次問題となる行動内容を記録化し、タイムリーに改善指導を行う、その上で、改善が見られない場合に初めて退職勧奨を行うといったことが最低限必要と思われます。
 結局のところ、簡単に人を辞めさせる方法はないということを受け入れた上で、きめ細かい社内体制を作っていくしかないわけです。

 結局、いつもと同じ結論となってしまいましたが、改めて人を辞めさせるということの重大性をこの記事から理解いただければと思います。

 今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。

「無期転換権」行使のおすすめ

 先般、8月22日付のヤフーニュースで「なぜ有期雇用労働者は「無期転換」を望まないのか? 「希望する」は3割弱、厚労省調査の読み方」という記事が掲載されていました。
 労働契約法18条1項は、同じ勤務先で通算5年を超えて働くことになる有期雇用契約者に対し、使用者への無期雇用契約の申込権を与えています。
 しかし、この記事によれば、無期転換権を取得した労働者のうち、実際にその権利を行使したのは27.8%に止まっているとのことです。
 また、同記事では、弁護士が無期転換権が行使されない理由を分析しています。
 その内容を引用しますと、①「有期契約者の年齢が比較的高い」、②「無期転換権が行使できるほどの通算勤務年数がない(上限が定められている)」、③「無期転換ルールを知らない人が多いのではないか」、④「無期転換後の労働条件がわからない(企業内で無期転換後の労働条件=就業規則が整備されていない)」、⑤「無期転換後も労働条件が変わらないため、無期転換権を行使するメリットがない」、⑥「無期転換してしまうと、有期契約労働者に適用される法律(旧労働契約法20条、現行パート有期法)が適用されなくなってしまう。無期契約労働者と比較して不合理な労働条件の相違や差別的取扱いを禁止した、有期契約労働者の権利を保障する制度が使えないと考えられている」というものが挙げられています。
 確かに、これらの理由が権利行使の障害になっているのは間違いないでしょう。補足すると、無期転換権を知っていても、行使すると使用者から嫌がらせを受けるのが怖くて行使できないというパターンも相当な数であるのではないかなと思われます。
 さらに、同記事では、このような無期転換権が行使されない現状に鑑みると、制度自体の見直しが必要であるとの提言も行っています。私も同感です。
 ただ、本記事では現状の法制度を前提とした無期転換権行使のための法的主張方法について考えてみたいと思います。

雇用期間の上限が定められている場合→運用面を争う

 まず、②の「無期転換権が行使できるほどの通算勤務年数がない(上限が定められている)」という点ですが、確かに雇用契約書で更新期間の上限が定められている場合、5年を経過する前に雇止めされてしまうため無期転換権を行使することは簡単ではないと思われます。
 ただ、実際には採用時に更新上限がないと説明していたり、あるいは他の有期契約労働者が5年を超えて契約を更新されていたりするなど、制度が形骸化しているケースも見受けられます。
 そういうケースであれば、「更新上限規定は黙示の合意で廃止された」、あるいは、「形骸的な運用の結果、労働者には更新の期待が生じた」などと主張して雇止めの有効性を争い、同時に無期転換権を行使するという余地があると思われます。

無期転換後の労働条件がわからない→正社員就業規則の適用を求める

 次に、④の「無期転換後の労働条件がわからない(企業内で無期転換後の労働条件=就業規則が整備されていない)」については、むしろ積極的に権利行使をする材料にもできそうです。
 というのも、労務管理に無頓着な企業ですと、正社員用の就業規則の適用範囲を単に「期限の定めのない労働者」程度にしか定めていない所が多いと推察されるからです。
 この場合ですと、無期転換権を行使することで「期限の定めのない労働者」となる結果、正社員用の就業規則の適用対象となり、労働条件が向上する可能性があります。
 労働契約法18条1項によれば、「別段の定め」がない限り無期転換後の労働条件に変更はないのが本来なのですが、正社員用の就業規則が「別段の定め」に該当すると主張するわけです。
 このように、無期転換後の労働条件が定められていないというケースでは、むしろ労働条件が有利になることも考えられます。

旧労働契約法20条、現行パート有期法が適用されなくなってしまう→就業規則の合理性を争う

 さらに、⑥「無期転換してしまうと、有期契約労働者に適用される法律(旧労働契約法20条、現行パート有期法)が適用されなくなってしまう。」という点については、「パート有期法で不合理とされている待遇差を無期転換社員に認めるのは不合理」として労働契約法7条などを根拠に無期転換社員用の就業規則の規定を無効にするという主張が考えられます。
 このような判断手法は井関松山製造所事件(高松高裁令和元年7月8日判決)でも行われているところなので、今後同種案件があればその推移を注視したいところです。

最後に

 以上、法的に理屈を詰めていくと無期転換権は労働者側にとってかなり有利な権利であるといえそうです。
 ただ、理屈ではそう言っても実際問題として権利行使するとなれば、やはり使用者側からの嫌がらせ、特に無期転換逃れの雇止めが最大の不安材料になるでしょう。
 そこで、弁護士としては、契約期間が満了する前の段階から労働者の代理人として無期転換権を行使した上で、権利行使後の雇止めが労働契約法19条に違反して無効になることを表明しておくことが求められます。
 もし、無期転換権の対象になる人で、権利行使を迷っている場合には、一度弁護士に相談をされてみてください。
 せっかくの権利です。是非とも勇気を出して使ってみてほしいと思います。

 今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。

SNS炎上、どう対応するか

 最近、SNS上でホビージャパン社の従業員が転売行為を是認する投稿をして大炎上を起こしました。
 これに対し、ホビージャパン社は対象の従業員を「退職処分」としたようです。
 この「退職処分」とは要するに解雇だと思われますが、そうだとするとその有効性については労働弁護士的にはかなり疑問が残ります。
 また、この件に限らず、過去には飲食店店員等が不衛生な行動をとって炎上し、後に解雇されるという「バイトテロ案件」が複数回見られるところです。
 そこで、これを機に労働法的に見た場合にこれらの処分が有効なのかについて、私の見解をお話したいと思います。

いきなり解雇は疑問

 私が知る限り、「バイトテロ」案件では炎上騒動を知った企業が直ちに謝罪文をプレスリリースし、少し間をおいて対象従業員を(懲戒)解雇するという流れが多いようです。また、そのような処分を行った後で解雇無効を訴えが生じたという話は聞きません。
 ただ、実際問題いきなり解雇というのは法的にはかなりグレーかなという印象をもっています。

 前提として、ここでいう「解雇」には普通解雇と懲戒解雇の2つの種類があります。両者は労働者の地位を剥奪するという効果自体では同じですが、前者が労働者の適性・能力不足といった人事上の理由で行うのに対し、後者が社内における懲罰として行うという点ではっきりとした性質の違いがあります。
 そのため、一言で「解雇」という場合でも、まずはその解雇が普通解雇と懲戒解雇のどちらを指しているのかを特定する必要があります。この点が曖昧ですと、そもそも処分に対する検討が雑ということで解雇の効力が否定される可能性が強まります。

 その上で、このような場合の解雇は会社に対する社会的・経済的損害を生じさせたことに対する制裁として行われるものと考えられます。そのため、解雇の性質が明らかにならない場合、その解雇は基本的に懲戒処分としての解雇と判断されるのではないかと思われます。
 しかし、懲戒処分は、いわば「社内における犯罪者」としての烙印を押す行為です。そのため、労働契約法15条は、懲戒処分が有効となる場合を①使用者が労働者を懲戒することができる場合で、②当該懲戒に客観的合理性があり、かつ、③その懲戒処分が社会通念上も相当である場合に限っています。
 そのため、①そもそも懲戒処分ができるような社内ルールがない場合、②懲戒処分とするような根拠となる事実がない場合、③懲戒処分が重すぎる場合では、その懲戒処分は無効となります。また、懲戒処分は社内における懲罰という性質から、その処分を行うに際しては刑事訴訟手続に準じた手続の保障(例えば処分前に労働者の言い分を聞く「弁明の機会の付与」などの権利)を労働者に認めておく必要があります。
 そういった観点で従来の炎上案件を見てみると、処分までのスピードが早すぎるため、本当に「弁明の機会の付与」などが適切に行われたのか疑問を感じさせられることがあります。
 また、処分としての相当性について、確かに「バイトテロ」案件では原材料の大量廃棄・店内の一斉清掃・休業による営業損失といった多大な損害が発生します。そのため、懲戒処分の内容がかなり重いものになること自体は当然です。
 しかし他方で、例えば事前に十分な社内研修を行っていなかったというケースであれば使用者側にも相応の落ち度があります。特に、対象労働者が未熟な学生アルバイトであれば、一層事前教育の必要があると判断される可能性があります。それを、解雇という形で労働者のみに責任を押しつける方法をとることは使用者側に不利な事情のひとつと評価されてもやむを得ないように思われます。
 そのため、私自身の見解としては、「バイトテロ」案件であっても、対象労働者が学生アルバイトで、事前の社内教育もないまま初めて炎上案件を発生させてしまったという場合には、直ちに懲戒解雇とすることは無効となる可能性が十分にあると考えています。
 また、普通解雇の場合でも、その解雇に①客観的合理性と②社会的相当性があって初めて有効となる点では懲戒解雇に近いものがあります。そのため、普通解雇の方が懲戒解雇よりも若干緩いといっても、実際には解雇の難易度に大差はありません。
 普通解雇の場合には、解雇の理由は業務上の適性・能力に欠けるという点が中心になるのでしょうが、対象労働者が学生アルバイトという場合、初期の業務遂行能力はそれほど高いものが求められていない上に、社内教育により行状が改善する見込みも大きいと判断されると思われるので、いきなり解雇は少なくとも解雇の社会的相当性を欠くように感じられます。
 そのため、普通解雇の場合でも、やはり上記のようなケースでは解雇が無効になる可能性は十分にあると考えます。

それならどういう処分をしたらいいのか?

 ただし、「バイトテロ」が企業に対し社会的・経済的に大損害を与える行為であることに間違いはありません。そのため、対象労働者にはかなり重い社内処分を行うことはむしろ当然であると考えます。ただし、その場合でも、対象労働者には十分な手続保障をする必要があります。
 そこで、仮に私が事前に会社側から相談を受けたとしたら、まずは懲戒の対象となる行為の日時・場所・行為・損害の内容を特定したうえで、本人たちから事情聴取を行い、候補となる処分内容を決めた上で、再度本人たちに懲戒の対象となる事実を告げ、本人たちの言い分を聴き取り、最終処分を判断するよう助言するでしょう。また、懲戒処分の種類については会社の損害の程度や事前の教育機会の有無やその内容などを考慮し、出勤停止処分を上限に選択するよう指導すると思われます。
 その上で、対象労働者が性懲りもなくさらに別の問題を生じさせたら、いよいよ解雇を検討するというプロセスをたどることになります。

なぜ解雇無効の問題が起きないのか

 このように、炎上案件の解雇の有効性には疑問が感じられることが少なくありません。しかし、実際問題として、この手の案件で解雇無効の紛争が起きたという話は聞かないです。
 その理由は、①やっている行為と結果自体は悪質で重大であるため、対象労働者も神妙になっていること、②この手の事案では多くの対象労働者が学生アルバイトであるため、退職に特に抵抗を感じないことにあるのではないかと推察しています。
 そのため、同種案件で他社がやっているからということで横並びに(懲戒)解雇を基本方針に据えることは労務管理上のリスクが大きいように思われます。

ホビージャパンのケースはどう考えるか

 翻って、今回のホビージャパン案件の退職処分についてはどう考えればよいでしょうか。
 今回、問題を起こした社員は正社員で勤務歴もある程度あるものと推察されます。そうであれば、SNS上で拡散してよいメッセージか否かは社会人の常識に照らし自分で判断可能だったとはいえるでしょう。
 他方で、仮に正社員で勤務歴も長いということになれば、会社から得られる給与で一家の生活を成り立たせているということであり、その地位をいきなり剥奪する不利益は極めて大きいものがあります。そのため、ホビージャパンのケースでは少なくとも解雇の相当性を逸脱しているように思われます。
 しかも、ホビージャパンの案件は現時点で会社に明らかな経済的損害が発生したともいえず、「バイトテロ」案件よりも悪質性が数段劣っています。
 そのため、ホビージャパンのケースでは、今回の退職処分(という名の解雇)の有効性が争われた場合、かなり会社側に分が悪いように思われます。
 使用者にとっては素早い判断で断固たる処分が必要だとは十分承知しているところですが、「バイトテロ」案件の「一般的な」処理方法を鵜呑みにするのではなく、まずは事前に弁護士に相談してほしいと願うところです。

 今回も最後までお読みいただきありがとうございました。