弁護士はどうして1人で仕事をするのか?

 日本の弁護士事務所は弁護士1人に事務員1人~2人という小規模なものが多いです。大都市部や一部の新興系事務所には100人を超える弁護士が所属していますが、私がいる鹿児島では128ある弁護士事務所のうち85か所は弁護士1人の事務所となっています(2018年3月31日時点)。
 弁護士以外の人たちから見た場合、多くの弁護士が集まって共同で経営をした方が事件処理の効率も上がるし、弁護士費用も安くなるのではないかと考えるのではないかと思います。
 今回は、弁護士事務所がどうして小規模になってしまうのかについてお話ししたいと思います。

目次

  1.  チーム制にするメリットがない
  2.  固定支出の抑制
  3.  依頼者にとっての小規模事務所のメリット

1 チーム制にするメリットがない

 弁護士はいったん事件を受けた以上、事件の流れや法律上の問題を全て把握しなければなりません。たとえば解雇トラブルの場合、「いつクビだと言われのか」、「使用者からはどのような発言があったのか」、「就業規則上の根拠はあったのか」、「解雇になるまでに処分歴はあったのか」、「懲戒解雇なのか普通解雇なのか」、「解雇予告はされたのか」、「解雇理由は説明されたのか」といった事実を把握し、その上で「職場復帰を求めるか、金銭的解決を求めるか」、「交渉での解決を目指すか、労働審判・訴訟を提起するか」といった方針を決定しなければなりません。
 この場合、当然ながら弁護士は依頼者からの事実経過を聴き取ることになりますが、その場合、弁護士は1人で依頼者に対応することとなります。何月何日までの出来事は○○弁護士が聴き取って、それ以降は××弁護士が聴き取りますなどというのは不合理の極みだからです。何より、依頼者を不安にしかさせません。
 もちろん、事務所によっては1つの事件に複数の弁護士が関与することもありますが、その場合でもまずは主任弁護士が事件全体像を把握した上で、その結果を他の弁護士たちに報告するという形をとります。そのようにしないと弁護士同士での責任の所在が曖昧になり、誰1人事件の内容を把握していないという問題が起こってしまうからです。
 結局、弁護士の業務においては、事務所の規模の大小にかかわらず、最低でも1人は事件の全体像を把握していなければならないこととなります。
 そして、弁護士として平均的な能力があれば、事件の全体像を把握できた時点で1人で処理方針を決められます。仮に弁護士複数名で協議したとしても結論に大した差は生じないことがほとんどです。
 そうであれば、わざわざ複数名の弁護士でチームを組むよりも1人で事件を処理した方が報告・連絡・協議の手間がない分だけ効率的に事件を処理できる点で合理的です。
 また、分業のメリットがない中で複数名の弁護士がチームを組むとなると、依頼者にとっては弁護士の人数分だけ弁護士費用が増えてしまうというデメリットを抱えることになります。
 以上のように、弁護士の業務は少なくとも1人の弁護士が事件全体を把握していなければならないという特性上、分業のメリットが働きにくく、大規模化しにくいという傾向があります。

2 固定支出の抑制

 先に書いたように、弁護士は事件の全体像を自身で把握しておく必要があります。一種の「オーダーメイド」方式で1件1件の事件を処理していくため、同時に処理できる事件数にはどうしても限界があります(1人当たり40件前後が限界という話があります。)。
 その結果、弁護士事務所は年商ベースで考えた場合、零細個人事業主になることが非常に多いです。
 その上、弁護士業務は基本的に固定客・固定収入というものがありません。顧問先がたくさんいるという場合は話が別ですが、基本的に弁護士に依頼がくる場合というのは「離婚」、「交通事故」、「相続」、「解雇」、「労働災害」などといった突発的・偶発的なトラブルが発生したケースに限られています。
 このように、弁護士業務に関しては、受け入れ可能な事件数に限界があるにもかかわらず、肝腎の依頼がいつ来るか分からないといった事情から、収入面の見通しを立てることが難しいという特徴があります。そうすると、弁護士事務所側は支出の抑制により経営を安定させようという発想になりがちとなります。
 幸い、弁護士は事務所というハコとパソコン、電話・FAX、印刷機があれば最低限の仕事をすることができます。したがって、支出を削減しようとすれば最大の固定支出である人件費、すなわち弁護士や事務員の採用を抑えればよいこととなります。
 それでは弁護士と事務員のどちらの採用を抑えればよいのかといえば、それは弁護士ということになります。なぜなら、事務員については弁護士が苦手な雑務作業を代行してくれるという無上の価値がありますが、弁護士を採用したそのような作業は期待できない上、ある程度にしても高額の給与・報酬を約束しなければならないからです。
 以上のように、弁護士事務所の経営においては支出を抑制しようという発想になりやすいため、固定費を増大させる弁護士の採用という発想になかなか至りにくく、その結果、弁護士1人の事務所が多数を占めるという現象が生じることになるのです。

3 依頼者にとっての小規模事務所のメリット

 以上、弁護士事務所が小規模になりやすい理由についてお話ししました。
 もともと小規模事務所は広告に力を入れない傾向があるので、利用者側からすると誰が自分にとって良い弁護士かどうかを判断しにくいという不安材料を抱えることになります。
 しかし、これまでお話しましたとおり、小規模事務所の弁護士は「オーダーメイド」で仕事を行うという意識が強い傾向があるため、弁護士と直接面談して打ち合わせができる可能性が高いというメリットがあります。
 もちろん、実際にそのようなメリットがあるのかは、利用者自身が弁護士と話をしてみて相性を確認する必要はありますが、小規模事務所だから頼りにならないとか実力がないということはありません。
 むしろ、依頼者とのコミュニケーションは事件の進行に大きな影響を与えるものあることから、弁護士と連絡がとりやすいというのは依頼者にとっては一番大きなメリットになります。
 したがって、利用者側としては、事務所のブランドではなく、複数の小規模事務所を当たって一番話がしやすいと感じた弁護士に依頼するのが賢い弁護士の選び方だと考えています。
 以上、小規模事務所の事情についてお話させていただきました。このお話が、皆様の弁護士選びの参考になれば幸いです。
 最後までお読みいただきましてありがとうございました。