離婚調停は機能しているか?

昨日,東京家庭裁判所で離婚調停中の妻が夫から刺されて死亡する事件が起きました。
 被害者の方の無念を思うといたたまれなくてなりません。この場をお借りしてご冥福をお祈り申し上げます。
 今回の事件をきっかけに弁護士の先生方が今の離婚制度に関して色々述べておられます。私も今の離婚調停の仕組には思うところがあるため,今回そのことを記事にすることとしました。

目次

1 離婚調停の仕組み

2 調停前置主義

3 弁護士から見た調停離婚の問題点

(1) 離婚成立までに長い時間がかかる

(2) 調停員が個人的意見を押しつけることがある

(3) 裁判所への出頭を強いられる

(4) 当事者に大きなストレスを強いている

4 まとめ

5 最後に

1 離婚調停の仕組み

 日本における離婚の方法には大きく分けて①協議離婚,②調停離婚,③裁判離婚の3つの種類があります。このうち①の協議離婚は夫婦同士が話合いで離婚を決めた後,双方が離婚届にサインして市役所に提出するという形で行われるもので,これは皆様にもイメージがしやすいかと思います。
 これに対し,②離婚調停と③裁判離婚については今ひとつイメージがしにくいという方も多いかと思います。
 このうち,②調停離婚は家庭裁判所において夫婦が話合いを行う方法で離婚をするというものです。「話合い」といいますが,実際には男女1名の「調停員」が当事者から交替で話を聞いていきます。
 ②の調停離婚は裁判所での手続ではありますが,飽くまで夫婦の話合いによって離婚を目指すものです。そのため,話合いが期待できないケースでは調停は不成立ということになります。そのため,当事者の一方がどうしても離婚したいと希望する場合には③の裁判離婚の手続をとることになります。
 裁判離婚の手続では裁判官が民法上の離婚事由(不貞行為など)があるか否かを当事者が提出した主張と証拠でもって審査します。離婚事由があるため夫婦関係の改善が不可能と判断された場合,裁判官は判決で離婚の成立を宣言します。

2 調停前置主義

 以上が日本における離婚制度の概要となりますが,今の離婚制度ではいきなり③の裁判離婚に及ぶことはできず,先に②調停離婚の手続をとるべきとされています。これを調停前置主義」といいます。
 離婚訴訟は,離婚を希望しない一方当事者の意向を無視して判決で強制的に離婚を成立させるものです。したがって,裁判離婚においては仮に離婚が成立した場合でも当事者間に深刻な感情の対立が残ることとなります。これに対して調停離婚は話合いによる合意で離婚を成立させるものですから,そのような感情の対立はある程度緩和されることとなります。
 このような理由から,日本の離婚制度ではまず離婚調停を申し立てるべきという調停前置主義が採用されています。

3 弁護士から見た調停離婚の問題点

 このように,調停前置主義は当事者の合意に基づく離婚後の対立の緩和という目的のもと制度化されているものですが,弁護士からはあまり良い評判を聞きません。その点は私も同じ感想をもっています。それは調停前置主義には次のような問題点があるからです。

(1) 離婚成立までに長い時間がかかる

 離婚調停での話合いと合意が可能な事案であれば,離婚成立までにかかる時間は短くなります。
 しかし,最初から話合いが成立するような関係性であれば協議離婚が可能なのではないかと思われます。したがって,離婚調停が申し立てられるケースというのは,ある程度夫婦間の意見の対立が大きく,話合いが困難な場合が多いのではないかと思います。
 そのような場合でも,調停前置主義を採用する現状においては,いったん離婚調停を申し立て,その調停を不成立で終わらせた後,さらに離婚訴訟を提起するという手間を強いられることになります。
 このように,調停前置主義があるためにかえって離婚成立までの時間が長期化してしまうというケースが見受けられます。

(2) 調停員が個人的意見を押しつけることがある

 離婚調停に立ち会う調停員は一般市民の良識を反映させるため,社会生活上の豊富な知識経験や専門的な知識を持つ人の中から選ばれるとされています。必ずしも法律に関する知識や経験が必要とされるわけではなく,実際にも法律家以外の調停員が多数派のようです。また,年齢層的には60代以上が多くを占めているようです。
 調停員は,法律を杓子定規に当てはめるのではなく,当事者の気持ちを酌み,双方が円滑に話合いができる環境を整えるということが期待されています。そして実際に調停員の人生経験・人間観が当事者に安心感を与えるというケースは多くあります。
 しかし,調停員には地元でも信頼感の厚い「名士」が選任される傾向があることから,その成功体験に基づいて当事者を「説教」するような態度(例えば「結婚生活には我慢も必要だ」などと発言する)に及んでしまうことがあります。
 また,調停員には必ずしも法的な素養が求められていないことから,法的にはとても認められないような主張をする場合(例えば非監護親に安定した収入があるにもかかわらず「養育費は1円も払わない」と主張する場合)であっても,一方当事者が主張しているからという理由だけでそれを他方にそのまま伝えてしまうことがあります。
 その場合,DVやモラハラで苦しんでいる当事者にとっては「裁判所に裏切られた」という気持ちになってしまい,自暴自棄になって非常に不利な条件での離婚を受け入れてしまうということが起こってしまいます。

(3) 裁判所への出頭を強いられる

 調停手続は当事者から話を聞き取るための手続ですので,当事者は実際に裁判所を訪れて調停員や裁判官と話をする必要があります。
 しかし,当事者の感情的対立が深刻化していたり,あるいはDVやモラハラがあったりする事案のケースですと,当事者は他方当事者が裁判所にいるかもしれないと考えるだけで強い不安を覚えてしまいます。
 また,そのような事例では当事者の一方が激昂して他方当事者に加害行為を加える危険があります。今回の事件はその危険が現実化したものということができます。
 これに対し,離婚訴訟であれば言いたいことは訴状や準備書面といった書面で説明することとなるため,仮に出廷の必要がある場合でも調停に比べれば非常に短い滞在時間で済みます。特に弁護士が代理人になる場合,そういった書面は弁護士が作成・提出し,期日にも一部の例外を除いて弁護士だけが出廷するので当事者の出廷の負担は大きく緩和されます。

(4) 当事者に大きなストレスを強いている

 上記の(1)から(3)の結果として,離婚調停を申し立てた側の当事者は大きなストレスを抱えます。
 先にも記載しましたが,当事者同士の話合いができる関係性であればそもそも裁判所の手続に及ぶことなく協議離婚をすることが可能です。
 そうではなく,離婚調停に及ばなければならないという事態になったこと自体,離婚を希望する側からすれば話合いが苦痛であるということの徴表に他なりません。
 それにもかかわらず,調停という場で離婚を断固拒絶するという相手方との話合いを強いられ,時には調停員から心にもないことを言われる。しかも調停が成立しなければさらに離婚訴訟を提起しなければならないということは,離婚を希望する当事者に極めて大きなストレスを与えます。
 しかも,ストレスを抱える側はなかなかそれを声に出すことができないため,その本心・実情が裁判所に伝わらず,その結果として離婚を希望する当事者は裁判所に失望し,「何でもいいからとりあえず離婚したい」という自暴自棄な気持ちになって不利な離婚調停を受け入れてしまうという危険があるように感じます(飽くまで個人的な感覚ですが,弁護士として活動しているとそのようなケースに遭遇することは珍しくありません。)。

4 まとめ

 このように,離婚調停制度は様々な問題をもっており,当事者の合意による対立の緩和という制度趣旨が本当に実現できているか大いに疑問があります。調停前置という形で話合いを「強制」されることで声が大きい当事者の意向を他方当事者が飲まされているというケースは相当にあると思われ,特にDVやモラハラが絡む事件では被害者側の受ける不利益は大きいと思われます。
 そもそも,離婚訴訟手続だからといって一刀両断型の解決がされるわけではなく,夫婦の意見が一致した場合にはその時点で和解で離婚することは可能です(人事訴訟法37条)。そして,離婚訴訟の場合は裁判官と夫婦双方の弁護士が法律と証拠に基づいてを意見を出し合うため,最初から無理筋な主張は手続の初期段階で排除され,結果的に離婚までの時間が短期化するようにも思われます。
 それでも調停前置主義が今も採用されているのは,「夫婦関係はできる限り維持されるべき」という家族主義的価値観が根底にあるからのように感じられます。
 しかし,個人の意思と人格が何よりも尊重されるべき今の時代に,一度気持ちが離れた者同士の夫婦関係を維持させなければならない理由はなく,「まずは話合い」を強いられる理由もないと思われます。
 そう考えた場合,離婚調停制度自体は良い部分も多いと思いますが,まず離婚調停ありきという制度設計はいい加減改められてもいい時期だと思います。

5 最後に

 以上の話は弁護士側から見た調停離婚制度の問題を述べたものです。そのため,弁護士が関与していないケースでは夫婦間で円満に話合いが成立しているのかもしれません。したがって,今回の記事は特定の立場からの1つの意見として読んでいただければと思います。
 いずれにしても,夫婦同士の感情の対立が激しいケースやDV・モラハラにで当事者が心身に疲弊を来しているようなケースでは,周囲の助力なしに離婚をしようとすると不本意な離婚条件を受け入れざるを得なくなったり,最悪の場合には今回の事件のような生命・身体の危険が生じてしまったりします。
 もちろん弁護士が介入すれば直ちにあらゆる問題が完全に解決するわけではありませんが,それでも弁護士だからこそ知っている対処法というものもあります。
 そのため,離婚を考えておられる方々におかれましては,1人で問題を抱え込むのではなく,家族や友人,そしてできれば近くの弁護士に悩みを相談されることをお勧めいたします。

【判例紹介】有期雇用について定めた労働条件通知書の効力を否定し解雇無効を認めた事例

 当事務所では労働事件を主要な業務の1つとしております。
 このたびは皆様に当事務所の存在を知っていただくとともに,私自身もより法律への理解を深めていきたいと考えたことから,この場を借りて興味深い判例を紹介することにしました。
 内容的に難しい部分もあるかもしれませんが,徐々に慣れていきたいと思いますのでお目通しいただければと思います。
 今回紹介するのは社会福祉法人佳徳会事件(熊本地裁平成30年2月22日判決・労働判例1193号52ページ)です。

 案件の内容を簡潔に言いますと,あるNPO法人の運営していた保育園が存続の危機に陥ったため別の社会福祉法人にその事業を引き継いだところ,その新法人が従前より勤務していた保育士を解雇したため,保育士側がその解雇の無効などを主張したという事案です。
 この裁判では結論として解雇が無効とされましたが,その論理構成が面白く今後の業務にも参考になると考えたので紹介させていただきます。

 この事例では,主な争点として①NPO法人が保育士と締結していた労働契約(雇用期間の定めなし)の内容がそのまま新法人にも引き継がれるか。②仮に労働契約がそのまま引き継がれないとした場合,保育士と新法人との間では無期雇用が成立したか,それとも有期雇用が成立したに止まるか。③保育士に対する解雇の理由はあるのか。といったことが問題となりました。

 ここで,どうしてこれらの点が争点になったのかというと,保育士と新法人との間の労働契約に雇用期間の定めがない場合,新法人側は法律が定める解雇理由がない限り保育士との労働契約を終了させられず,したがって保育士に給与を支払い続ける必要が生じるからです。
 これに対し,労働契約の内容として雇用期間が定まっている場合,原則としてその期間の終了をもって労働契約は終了となるため,法人側は保育士に給与を支払う必要はなくなります。
 そして,今回の場合保育士は社会福祉法人との間で有期雇用を許す雇用条件通知書にサインをしてしまっていたという事情がありました。そこで,保育士側が無期雇用の成立を主張するために上記①と②の点を争点にする必要があったのです。

 これに対しての裁判所の判断ですが,①については新法人への労働契約の引き継ぎは認めませんでした。その上で,②については雇用条件通知書の記載にもかかわらず無期雇用の成立を認め,その上で雇用条件通知書は労働条件の不利益変更であり,労働者側の自由な意思による同意がないため無効であるとし,最後に③保育士側には解雇理由がないので解雇は無効と判断しました。

 この事件で論理構成が面白いのは②の点についてです。
 先にも書きましたように,この事例では有期雇用を認める雇用条件通知書にサインをしていたため,一見すると雇用期間のある労働契約が成立しているように見えます。
 しかし,裁判所はこの点につき,新法人側が雇用期間の有無について事前に保育士側に説明していなかったこと,保育士はNPO法人時代には無期雇用で勤務しており,新法人引継後も同様の雇用条件で勤務することを希望していたことなどを理由に新法人と保育士の間の労働契約は無期雇用であるとしました。

 そうすると,雇用条件通知書へのサインは,いったん成立した無期雇用を有期雇用に変更するものとなります。
 ここで,労働契約法8条は当事者が同意をすれば労働条件を変更することができるとしています。しかし,労働条件の不利益変更に関しては,労働者側が自由な意思に基づき当該条件変更を受け入れたと客観的に認められる場合にだけ同意の効力を認めるという慎重な姿勢がとられています(最小第2・平成28年2月19日判決・山梨県民信用組合事件を参照)。
 その上で,本事件では一般に有期雇用は無期雇用よりも不利な内容の労働契約とされていることから,保育士側が自由な意思で有期雇用への変更を受け入れたかどうかが問題になると扱い,最終的に有期雇用への変更を認めませんでした。

 以上のように,本事件は雇用条件通知書へのサインという保育士側にとっては非常に不利な事情があったにもかかわらず,新法人への勤務が開始するまでに至った経緯を詳細に認定することで無期雇用の成立を認め,その上で有期雇用という労働条件の不利益変更が認められるかという論理を組み立てた点に恣意的な解雇の抑止に対する強い姿勢を見ることができます。
 そして,本事件のような雇用条件通知書を作成する前の経緯を重視するという考え方は,求人情報と実際の雇用条件が違うという「求人詐欺」にも応用ができるものと考えられます。
 このように,雇用条件通知書や雇用契約書にサインを迫られた場合でも,場合によっては不利な状況を覆せることもありますので,雇用条件に疑問がある場合は弁護士に相談されることをお勧めいたします。

 以上のような形で,今後は不定期に判例や弁護士業務の内容などについて配信してまいりたいと思いますので,皆様におかれましてはよろしくお願い申し上げます。