【判例紹介】正社員と臨時職員との間に存在する基本給と賞与の差異が不合理なものと認定された事例

今回は正社員と臨時職員における賃金の差異が労働契約法20条に反するとして基本給と賞与額の一部につき差額分の支払を命じた学校法人産業医科大学事件(福岡高裁平成30年11月29日判決)を紹介します。
 正社員の賃金と有期社員との間における賃金の区別の正当性は同法20条の当該区別が「不合理」か否かという形で判断されていますが、この「不合理」な賃金差というのは簡単には認められません。
 しかし、本事件では基本給と賞与という賃金の根幹部分について一定の範囲で「不合理」な差異を認めたという点で非常にインパクトがありました。

目次

1 事案の概要

2 判決内容について

3 裁判所も正社員と臨時職員の立場に差があることは認めている

4 30年以上継続勤務した点を重視した

5 本判決についての感想

1 事案の概要

 本件の訴訟を提起した労働者は、昭和55年に短大を卒業後、勤務先である大学から任期1年の臨時職員として採用され、以降、30年以上にわたり契約を更新し、大学病院の歯科口腔外科で予算・物品の管理、講義の準備、学生の出欠管理等の業務に従事していました。
 この大学の正社員については俸給、賞与、退職手当が支給されますが、臨時職員は給与、賞与は支給されるものの、退職手当はなく、給与の月額は毎年一律で定期昇給はないという取り扱いがされていました。
 その結果、本件の労働者の賃金総額は、同じ頃に就職した正社員の賃金と比較して基本給の金額で約2倍の差が生じました。なお、賞与については正社員と臨時職員ともに年3.95か月分が支給されていました。
 その他、本事件では臨時職員の制度は昭和54年に大学が開院した当時の職員不足を補う目的で設けられたものであること、同臨時職員の制度は昭和57年まで継続されたことなどが認定されています。

2 判決内容について

 上記の事実関係につき、高裁は月額3万円の限度で正社員の賃金と臨時職員の賃金との間には労働契約法20条に違反する「不合理」な差があると認定し、これに基づき基本給28か月分と賞与5回分の賃金差額の合計額である113万4000円分について不法行為に基づく損害賠償請求を認めました。
 この裁判例の特徴は次の点にあると思われます。

3 裁判所も正社員と臨時職員の立場に差があることは認めている

 労働契約法20条によれば、労働契約の期間があることによって正社員と有期社員の間に労働条件の差が生じている場合、その労働条件の差は「不合理」なものであってはならないとしています。そして、この「不合理」の有無については、①「業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度」、②「職務の内容及び配置の変更の範囲」、③「その他の事情」の観点から総合的に考慮すべきとされています。
 この点、本判決は①に関して大学の正社員と臨時職員の業務内容は類似する部分はあるものの、正社員がその業務を取り扱っていた時間や経理業務で管理していた金額に大きな差があるため業務の範囲や責任の程度に差があると認定しました。
 また、②についても正社員は大学内の全ての部署に配属される可能性や出向を含む異動の可能性があり、多様な業務を担当することが予定されている一方、臨時職員については異動も出向も業務内容の変更も予定されておらず、大学内の中核を担う人材として登用されることも予定されていないとして正社員と臨時職員の間には人材活用のシステム上の差異があることを認定しました。
 このように、裁判所も正社員と臨時職員には様々な点で立場に差があることは認めています。

4 30年以上継続勤務した点を重視した

 他方で、本判決は、1か月ないし1年の短期という条件で人手不足を補う目的のために臨時職員として採用された本件の労働者が、その後30年以上もの長期にわたって雇用されていたことを③の「その他の事情」として考慮しました。
 その上で、裁判所は、主任に昇格する前の正社員の賃金水準を下回っている月額3万円分について「不合理」な賃金差があるものと認定し、結論として基本給28か月分、賞与5回分の合計である113万4000円について不法行為に基づく損害賠償請求が認められるとしました。

5 本判決についての感想

 既に述べましたように、本件においては正社員と臨時職員との間に①「業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度」、②「職務の内容及び配置の変更の範囲」について区別があることは認定されています。そして、このような業務内容や地位・責任、配転等の人材活用のシステム、将来において社内で予定されている地位の差が存在する以上、労働契約法20条の「不合理」な賃金の差は存在しないとして請求を棄却する方向に流れてもおかしくはないと思われます(実際、本事件の1審では労働者側の敗訴となっております。)。
 しかし、本判決では対象の労働者が30年以上も大学にて勤務し続けていたこと、大学側もそのような事態を特に問題視せず対象労働者に対する雇止め等の措置をとらなかったことなどを根拠として、一定の範囲内で「不合理」な賃金差の存在を認めました。
 これは飽くまで私の推測ですが、裁判所の判断には、臨時職員制度が形骸化して久しく、臨時職員が実質的に正社員(の一部)と同様の業務を行っている事実が大学側の事情によって生じているにもかかわらず、そこから生じる賃金差を労働者に甘受させるのは信義に反するという価値観が働いたのかもしれません。
 もちろん、この判決については③の「その他の事情」で考慮される内容やその重みが不明確であるため、労働契約法20条の適否の予測可能性が失われるという批判が起きることが予測されるところです。
 他方で、この批判に対しては使用者側において法令や労働契約の手続に則り契約更新手続や雇止めを行うことで防ぐことができた事態であるから、使用者側に過剰な負担を課するものではないとの見解もあるかと思います。
 いずれにしても、本判決は③「その他の事情」如何で労働契約法20条違反を争う余地が広がったと評価できる意味で労使ともに非常にインパクトがあった判決だったと思います。
 本事件が上告・上告受理申立てがされたのかは把握しておりませんが、もしこれがされているとしたら果たして高裁の判断が維持されるのか、最高裁の判断を是非とも見てみたいものです。

2019年4月4日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : admin

交通事故被害者は3度泣く(1)

今回からは複数回に分けて交通事故に関して当事務所によく寄せられる不安や相談の内容についてお話しします。タイトルにあるとおり,交通事故の被害者は3度―事故にあったとき,治療をしているとき,損害賠償額を決めるとき―泣かされるというお話です。

最初の1回目についてはイメージしやすいことだと思いますが,交通事故の被害にあうと,それまで何でもなかった日常とうってかわって,怪我で身体は痛い,仕事ができなくて収入が入らない,これからどうなるんだろうと考えるなどして肉体的にも身体的にも大きなストレスを抱えることになります。

そのような中,被害者としてはまずは治療に専念して少しでも体調を良くすることを優先することになります。この場合,交通事故の相手方が任意保険に加入していて「一括払い」というサービスを利用することができる場合,被害者は窓口で医療費を支払うことなく治療を受けることができます。

この「一括払い」とは,任意保険会社が,被害者に対し,自賠責保険会社が負担すべき分も含めて被害者に交通事故で生じた損害の賠償金を支払い,その後,任意保険会社から自賠責保険会社に立替分の清算を求めるという前提で成り立っているサービスです。

そのため,被害者側は医療費の支払は相手方の保険会社に任せて自分は安心して治療に専念してゆっくり体調を回復させていけば良いということになるわけです・・・で終われば誰にとっても良い制度なのですが,実はこの段階で相手方の保険会社との間でトラブル―治療費の打ち切り問題―が起き,それで被害者側が泣かされるということがかなり多いのです。

このトラブルは次のことが原因となって起こります。つまり,傷害の場合における自賠責保険の保険金上限額は120万円であるところ,この金額を超えて被害者に損害が生じた場合,その部分は任意保険会社が負担しなければならなくなります。そのため,任意保険会社は自賠責会社から回収できる部分については割とすんなり治療費の支払を認めるものの,治療期間が長引いて自社からの手出しが見込まれるようになると途端に治療費の負担を渋るようになるのです。

被害者側からすれば,自分の治療がどのくらい続くのか,自分の体調は本当に良くなるのだろうかと不安が尽きない中でいきなり治療費の打ち切りを通知されるわけですから,大きく動揺してしまいます。そこで,治療費の打ち切りをめぐってはトラブルが生じやすいのです。

この点について,被害者の治療にどれくらいの時間がかかるかということは,医師が症状や治療経過を見極めてからでなければ判断することはできません。そのため,被害者としては医師から必要だと判断された治療は継続しても良いし,体調回復のためにはむしろ治療を継続すべきなのです。

それにもかかわらず保険会社から被害者に対して治療やめろオーラの圧力がかかるのは,自社の負担すべき損害賠償額を「適正」な範囲に抑えたいという任意保険会社側の意図があるからです。被害者が治療を継続することで,治療費以外の面でも保険会社の負担が増えるので,それを避けたいという心理があるからなのです。

確かに,必要もない治療のために漫然と治療費を負担し続けるということは,モラル・ハザードを招くものであって許されることではありません。

しかし,他方で正直な被害者が必要な治療も本来なら得られるはずの損害の賠償も受けられないというのであればそちらの方が余程大きな問題であると思います。そして,実際にそのような正直者の被害者の数は少なくないのです。

次回以降では,この治療費支払の打ち切り問題について,被害者の苦しみと本当に適正な損害賠償とは何かについて書いていきたいと思います。

大晦日を迎えて

ここしばらくさっぱり更新ができなくて申し訳ありませんでした。

おかげさまで,当事務所は開所1年を何とかクリアできそうでホッとしています。

 

こうして無事に新年を間近にして思い返すと,今年は本当にあっという間にすぎた1年でした。

私個人としては大変忙しいでしたが,依頼者の皆様から直接お話を伺うことができたことは実に貴重な1年でした。

それと同時に,弁護士とは目の前の現実に悩む人々の声を聞き,顔を見て,少しだけでも希望をかなえることができるという仕事なのだと実感した1年でした。

これもひとえに私を信頼してくださった皆様のおかげであったと感謝しております。

来年も弁護士として何ができるかを自問自答しながら皆様の基本的人権を保障するために邁進していきたいと思います。

 

特に,今月は生活保護基準引き下げの違憲訴訟に原告訴訟代理人の一員として参加させていただくことができ,今後の弁護士人生にとっての貴重な一里塚になりました。私の故郷である鹿児島で,このような国民一人一人の生活に直結する訴訟に関与することができるのは,私の人生にとって無上の喜びです。

この訴訟については,頭の裁判所を説得する意味でも,国民の皆様に訴訟の意義を理解していただく意味でも,非常に長く険しい道のりとなりますが,貧困というそこにある現実で苦しむ方々の生々しい現実を理解していただくべく努力して参りたいと思います。

 

また,本年はいわゆる「ブラック企業」とは何かを垣間見ることができた年でした。

私とほぼ同じ年代の方々が「ブラック企業」に就職し,そこで良いように使い倒され,最後には人生で一番大切な時間をつぶされた,そのような不条理に憤った1年であり,それと同時に,そのような方々がなかなか弁護士に相談に来ることができないという現実に非常にもどかしさを感じた1年でした。

 

来年は,私自身もより法律専門家としての自覚をもって知識とスキルを習得していくとともに,一国民として皆様の抱える悩みに真摯に耳を傾けて参りたいと考えております。それと同時に,悩みを持たれる方々により身近に弁護士という存在を知っていただくために何ができるのかということを問い続けて参りたいと思います。

 

このように色々とご託を並べて参りましたが,来年も自分にできることを精一杯やり遂げて参りたいと思いますので,皆々様におかれても何卒御協力のほどよろしくお願い申し上げます。

宮崎に行って参りました

一昨日の2月7日,九州弁護士会連合会(略して九弁連)の協議会に出席するために宮崎県に行って参りました。

弁護士たちは,日常的な法律業務以外にも人権保障や社会貢献を推進するためにいくつもの委員会を開催しています。私も九弁連では「高齢者・障害者支援に関する連絡協議会」に所属しており,2か月に1回くらいのペースで福岡県をはじめとする他県に行っています。

今回は,宮崎県弁護士会内において協議会があり,その後,宮日ホールにてシンポジウム「高齢者を支える権利擁護の仕組みを考える~日常生活自立支援事業から見える展望と課題~」が開催され,私も出席させていただきました。

ここでは具体的なシンポジウムの内容の説明は割愛します。しかし,判断能力が不十分な方々に対する権利擁護のあり方の実情や課題について分かりやすくかつテンポ良く議論されており,非常に充実したシンポジウムだったと思います。

日常生活自立支援制度は利用者本人が自身の意思に基づいて契約を締結し,普段の日常生活について援助を受ける制度です。その段階で弁護士が関与することはあまり多くないため,多くの弁護士にとってはそれほど縁がある制度ではないかもしれません。

しかし,高齢者や障害者の方々のクオリティ・オブ・ライフを実現するためには,我々弁護士も,成年後見制度と同じくらいに制度の内容を理解し,活用する必要があることを改めて確認することができました。

余談ですが,その夜にいただいた地鶏のたたきとチキン南蛮は絶品でした。鹿児島にも地鶏はありますが,やはり鶏肉の本場は宮崎なのだと再認識した次第でした。

はじめまして

初めまして。私は当事務所の弁護士の溝延祐樹と申します。

このたびは当事務所をご覧頂き誠にありがとうございます。

当事務所は,鹿児島県の一地区である霧島市に所在し,鹿児島県全域を中心に活動しています。

事務所紹介でも述べましたとおり,近年は司法制度改革により弁護士が増員されました。しかし,実際にはまだまだ弁護士という存在を知らないまま悩みを抱えて誰にも相談できないという方々が多くいらっしゃるように思います。

私は,そのような悩みをもつ方々にとって身近に寄り添える弁護士の1人として,少しでも皆様の助けになりたいと思いから,このたび当事務所を設立するとともに,ホームページを開設しました。「国分隼人法律事務所」の名称も,分かりやすく親しみやすい名前にしようという思いから付けたものです。

まだまだ未完成なホームページですが,今後随時更新してより見やすいものにしていきたいと思います。

また,当ブログについても,日々考えたことや皆様にお役に立てる情報を提供したいと思っていますので,よろしくお願いいたします。